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■続々テレビ化の人気作品群!!■ SFベストセラーズ(鶴書房)

学園魔女戦争

       宮崎惇(作) 中村宏(絵) 1978年3月1日初版発行

   学園魔女戦争 (ソノラマ文庫)
    学園魔女戦争 (1980年) (ソノラマ文庫)


 ★(あらすじ:帯より)

襲いかかる殺人トラックを宙へ舞
い上がる恐るべきテレキネシス!!

 ふとしたハリ治療中の事故が、木綿子をエ
 スパーに変えた。以来、彼女に忍びよる魔
 の手。謎の少年、大門航を追ううちに、敵
 は以外なその正体を表わした……
   (原文ママ) 

 
 ★(主な登場人物)

  
水沢木綿子……南ヶ丘中学2年生。
            鍼治療中の事故により精神動力(テレキネシス)を身につけたことから、
            奇怪な事件に巻き込まれる。少女野球のレギュラー選手でもある。
  
大門航……南ヶ丘中学3年生。学力、スポーツとも学校一の天才少年。
  
相原美和……木綿子の友人。超能力抗争に巻き込まれ、何度も命を奪われそうになる。
  
梅村順子……木綿子の友人。体育委員の朗らかな少女。しかし……。


 ★(感想:空想科学ジュヴナイル論争 宇宙からの侵略設定について)★(ネタバレ注意!!)★


 1978年3月に発行。1979年8月に鶴書房が倒産。
 1980年にソノラマ文庫版が発行されています。

 本書についてまず特記すべきことは、カバーと挿絵が中村宏だということでしょう。
 中学校を舞台とした学園ものといえば、今なら萌え系の表紙絵や挿絵が入るのでしょうが、
SFベストセラーズは中村宏さんのシュールな現代絵画を持ってきました。
 ソノラマ文庫版でも中村宏さんの表紙は継続。
 表紙を比べると、SFベストセラーズ版とは似ていますが違っているので、描き直されたのでしょう。
 挿絵も新たに描き直したのでしょうか。
 ただ、以前紹介した作品のような圧倒的シュールな画風ではなく、中村宏さんの絵としては少々おとなし目だと思います。

     犬の学校   ぼくの真っ赤な丸木舟   だけどぼくは海を見た   ぴかぴかのぎろちょん


            


 当時はまだ今のようなライトノベル系の萌え系の表紙の本は出ていなかったのでしょう。
 こういった挿絵の時代的移り変わりを考察するのも面白いテーマだと思います。
  
 さて、本書の主人公の名は水沢木綿子。木綿子と書いて「ゆうこ」と読むようです。

   「木綿子」で、何故「ユウコ」と読むのですか?  


 木綿子は持病に偏頭痛を持っていて、鍼治療に通っています。
 鍼治療の効果は上がっているようです。
 私は鍼灸治療はしたことないのですが、漢方薬は飲んでいて、東洋医療に興味があります。
 SFにこういった東洋医療の話題が出てくるのは嬉しいもんですね。
  
 ところが木綿子が鍼治療中、事故が起こり、鍼が頭頂部のツボ(百会)付近に突き刺さります。
 鍼は取り除いたはずですが、先の方が少し残り、そのために木綿子はテレキネシス(念力)の能力を持つことになります。
 
 鍼とツボによって超能力を得るという設定は面白い。
 一応、主人公の超能力開眼について科学的な説明をつけた形です。
 しかもそこに東洋医療を持ってくるというのは、日本SFらしい。
 確かに東洋医療は神秘的で、超能力やオカルトの世界と、科学や医療の世界をつなぐ役割を果たしています。
 西洋の科学や医学の専門家の中には、東洋医学を非科学的だとか下に見る方もおられるようですが、私は東洋医学を信じていますから。
  
 しかし、超能力を発揮できるツボだとか鍼治療はさすがにフィクションでしょうが。
(本当にそんなのがあるのなら私もやってもらいたい。)


 さて、物語は、木綿子たち仲良し3人組が、上級生の大門という天才少年と出会うことから動き始めます。
 この大門、中学の天体観測室で太陽黒点の観測をするのが趣味という万能の天才のようですが、
性格が悪いためにあまり人望がなく、3年生の間では孤立しているようです。
 木綿子が学校からの帰り道、公園の中で中学の不良グループ4人組にリンチされている大門を発見。
 木綿子の超能力開眼により、不良グループを撃退します。
 ところがその後、大門は交通事故に会い、入院。
 木綿子は姿の見えない敵から命を狙われることになります。
 見え隠れするのは、重症のため面会謝絶で動けないはずの大門の幽霊というか分身というかドッペルゲンガー。
  
「魔女戦争」というタイトルだから、主人公と敵対する超能力少女が登場して派手に対決するのかと思えば、少々地味な展開です。
 敵が天才少年らしいというのはいいのですが、その彼は不良グループにリンチされてボロボロになってるし、
主人公に助けられても知らん振りで逃げてしまうし、さらに交通事故で寝たきりになってしまうし、
万能の天才という前評判の割には、精彩を欠きます。


     


 まあここは、SF的な派手さではなく、木綿子を狙う敵は誰か、という謎を、
調査や推理によって解いていくというミステリー的な展開を重視したのでしょう。

 やがて大門は治療の甲斐なく死亡、意外な新たな敵が登場。
 この新たな敵によって事件の背景が語られます。

 黒幕は、地球侵略を狙う“宇宙侵略者(うちゅうインベーダー)”だった!
 彼らは、地球侵略に邪魔な超能力者を、手先を使って抹殺していたのだ!
 大門航もその手先の一人であったが、木綿子の抹殺に何度も失敗したためにお役御免となって処刑されたのである。
  
 侵略者を「うちゅうインベーダー」と呼んでいるのは、時代を感じさせます。
 彼らが手下を操るのは「洗脳コントロール型」なので、体の構造自体が変わるのではないようです。
 だから病院に入院しても普通の人間と違ったところはなく、違和感なかったようです。
 (確か中尾明『黒の放射線』では、手先となった人間は人体の構造も変わってしまった)

 しかし、分身を使う能力というのは強力です。宇宙インベーダーの手先になるともれなく付いてくる超能力なのでしょうか。
 それはともかく、物語が終わるラスト数ページで、大門に変わってインベーダーの手先となった二代目の意外な敵が登場!
 ようやくここで魔女対魔女の派手な超能力バトルシーンが展開されます。




          



 やはり魔女対魔女の戦いは華やかで派手です。
  (そういえば、『魔女っ子メグちゃん』最終回のメグちゃんVSノンちゃんのキャットファイトはすごかったですね~。)
 結局、魔女対魔女の戦いは、木綿子の勝利に終わります。
 インベーダーから与えられた魔力よりツボと鍼で得た超能力が勝ったという、東洋医療の面目躍如です。


(これからも、気をつけなければ……第三、第四の大門航やジュンコを出さないように……)

……というところで終わりますが、よく考えると、まだ安心できません。

 インベーダーの手下には勝ちましたが、インベーダー本体は無傷で残っていて、地球侵略を狙っているのです。
 著者の宮崎さんは続編を描く構想を持っていたのでしょうか。

 しかし、そもそもUFOを操って宇宙空間を飛来する科学力があるのだから、
手下を操ってエスパー狩りなどとまどろっこしいことをしなくても、簡単に侵略できるのではないでしょうか。
 そもそも宇宙からの侵略に対抗できる超能力者なんて滅多にいるもんでなし。
 それに、手先を操る能力があるのなら、超能力者を手先にしてしまえば済むことではないですか。

 宇宙人の侵略から地球を守るというテーマは、ジュニア向けSFではよくあったと思うテーマです。
 子どもとしては素朴で面白い設定なのですが、大人になって冷静に考えてみると、ツッコミどころ満載の設定ではないでしょうか。
  
 超能力者同士の対決というと、眉村卓『ねらわれた学園』があります。
 私は原作は未読で、1982年のフジテレビ版ドラマ(原田知世主演)だけ見たことあります。
 派手な超能力バトルのシーンもあったような記憶が。
 確か敵の超能力者は、歴史を改善するために未来から来ていたのでした。
 これだと敵は未来の地球人で、まだ違和感ありません。

  [wikipedia:ねらわれた学園]  


 本気出したら簡単に地球を侵略できるはずの宇宙人との出会いにどう説得力を持たせるか。
 その究極の形は、A・C・クラークの『幼年期の終わり』でしょう。
 これはジュヴナイルに限らず、SF作品全てに渡って重要なテーマだと思います。

 
ところで、本書の貴重な帯付き画像は、「ショートショートの…」高井信さんのブログから拝借しました。
  
 ショートショートの… SFベストセラーズ   http://short-short.blog.so-net.ne.jp/2012-11-20

 私は本の帯フェチなんですが、私の所持している本には帯がついていないので残念です。
 しかしこの帯、変なところで改行があるし、よく見ると表記間違いもないでしょうか。校正したのでしょうか。
 そんな所も含めて、貴重な帯の画像です。

 私が所持している本書は、昭和53年(1978年)3月1日初版という奥付があり、
昭和62年2月21日に購入したというメモ書きが記されています。
 鶴書房の倒産は1979年(昭和54年)8月。
 この倒産の8年後の購入ですが、古本屋ではなく普通の書店での購入です。

 私が住んでいた田舎町から今は廃線となっているローカル線で30分行った少し大きな町に、
今は閉店している小さなジャスコがありました。
 ある日、そこに入っていた、今はないローカル書店チェーンを見に行くと、床に小さな段ボール箱が置かれておりました。
 そしてその中に、色々な書店や古本屋で探しても見つからなかったSFベストセラーズが詰まっていたのです!
 昔のデッドストックが出てきたので店に出した、という風でした。
 SFベストセラーズにはSFのロゴが青色のと紫色のがありますが、その箱の中には、同じ作品で青色のと紫色のもありました(版違い?)。
 狂喜乱舞した私は、1冊づつ買い求め、SFベストセラーズをコンプリートしていきました。
 この時のこの箱の出会いは、まるでSFベストセラーズをタイムスリップして取り寄せたという感じ。
 ただ、この箱の中のSFベストセラーズには、帯がついていなかったように思います。
 子供の頃から帯フェチだった私ですから、帯付きのがあればそれを購入したはずです。
 だから、私が所持しているSFベストセラーズの大部分は、帯が付いていないのです。 


    [wikipedia:鶴書房]   [はてなキーワード:鶴書房]

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金の星社 少年少女21世紀のSF(2)怪惑星セレス 宮崎惇
 ボーイスカウト大活躍!単純に楽しめる冒険活劇!
  http://sfclub.sakura.ne.jp/21csf02.htm
  
  [wikipedia:宮崎惇]

   ショートショートの… 宮崎惇・著作リスト   http://short-short.blog.so-net.ne.jp/2009-07-20


                                                                         (2016.07.10)

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