なぞにみちた宇宙時代の、夢あふれる冒険の物語――
創作子どもSF全集(国土社)
日本子ども遊撃隊
(北川 幸比古・著/田島 征三・絵)
(1969年 初版発行 1981年 再版発行)
★(あらすじ:ネタばらしあります)★
地底や海底から出てきた前世紀の生き残りや、伝説の化け物、宇宙からやってきた怪物など、
映画やテレビや雑誌で見るだけだった怪獣が、日本の富士山を目印にして集まってきました。
これに対抗するため、日本子ども遊撃隊が募集されました。
“日本を守るために!”
これが日本子ども遊撃隊の合言葉です。
小学生の宙太くんも応募し、簡単な入隊試験に合格して入隊します。
子ども遊撃隊は訓練の後、富士山に集合し、怪獣達と戦い、全滅させました。
宙太くんはこの戦いで、逃げて隠れていた怪獣を一人で倒すという手柄を立てます。
さて、怪獣は全滅しましたが、日本子ども遊撃隊は依然、解散せず、激しい訓練を行っています。
両親や学校が恋しくなった宙太くんは、子ども遊撃隊をやめたいと隊長に言いに行きます。
「子ども遊撃隊は、すきなときにやめられる戦争ごっこの軍隊じゃない。ほんものの軍隊なんだ。
ほんものの軍隊は、いつ敵がせめてきてもいいように、訓練をしておかなきゃならん。
怪獣が全滅しても、ゆだんをせずに、訓練をするんだ。」
「わかろうと、わかるまいと、子ども遊撃隊は、かってにやめられないきまりだよ。
そんなことをしたら、敵の目のまえでにげだしたのとおなじで、死刑だからね」
と叱られます。そして、ますます激しい訓練が始まるのです。
宙太くんは士官候補生となり、子ども遊撃隊士官学校へ進みます。
しかし士官学校での勉強は戦争の方法ばかりで、宙太くんは、普通の小学校へ戻りたいと思います。
でもその頃には、もう普通の小学校はなくなり、みんな子ども遊撃隊の部隊に変わっていたのです。
ある日、士官学校にロボットが紛れ込んでいることが分かり、ロボットよりわけ作戦が始まります。
対人安全装置つきの光線銃をお互い撃ち合い、ロボットを破壊します。
その後、校長先生が、宙太くん達数人を、ロボット部隊に編入すると命令します。
宙太くん達の正体は、対人安全装置をごまかすロボットだと言うのです。
宙太くんは、こうなったら校長を殺して脱走するしかない、と、対人安全装置を外して校長に向けて光線銃を撃ちます。
すると、校長の体は歯車やコイルをこぼして飛び散ります。校長こそ、ロボットだったのです。
この事件で宙太くんはすっかり有名になり、テレビや雑誌の取材に追われるようになります。
士官学校を卒業して士官になった宙太くんは、昔通っていた小学校を改変した子ども遊撃隊の部隊に勤めることになります。
着任の日、町の人たちは宙太くんを大歓迎します。
その歓迎会の最中、地面から金属球が出現し、中から、にこにこと愛想の良い人間が出てきます。
彼は、未来から来た未来人だと名乗ります。
さらにもう一人、未来の地球防衛軍の司令官となった宙太くんも登場します。
未来人は、司令部にも士官学校にも各地の部隊にも同時多発的に一斉に現れたのです。
司令部から、未来人に協力するように、という指令が届きます。
未来人は、未来の様子をスクリーンに映し、紹介します。
「――こういう、たのしい未来をきずきましょう!
それには、ぜひ、みなさんに協力してもらい、うんと勉強をし、うんとはたらいてもらわなければなりません。
わたしたちに協力していうことを聞いてください」。
しかし、宙太くんの幼馴染みで初恋の人でもあったサクラちゃんが未来人に質問して食い下がり、矛盾を追及します。
「――だめだ。しっぱいだ。とんだじゃまがはいりやがった」
と言い残して逃げ帰ってしまいます。
後に残された未来の宙太くんは安物のロボットだと分かりました。
宙太くんは未来人がインチキだったと司令部に報告し、ますます名声を上げることになります。
そして、いんちき未来人を見破った宙太くんやサクラちゃんのいる部隊は、優れた部隊だということで、
そのままそっくり北国の基地に移して新しい任務につくことになりました。
雪は、毎日毎晩降り続き、子ども遊撃隊北国基地駐屯部隊は、ひっそりと勉強や訓練を始めます。
そのうち、母親にそっくりな雪女が出て、歌を歌ってくれるという事件が起こるようになり、
宙太くんもその母親そっくりの雪女に会います。
このことを本部に報告すると、地球を侵略する陰謀だということで、本部から司令官がヒート・キャノンを持ってやって来ます。
この司令官は、富士山麓での怪獣全滅作戦のときの宙太くんの上司の隊長でした。
早速、雪女ヒート・キャノン作戦が始まります。
たくさんの雪女が現れ、子守唄を歌い、手招きすると、隊員たちは武器を放り出して雪女のいる山の上に走り出しました。
司令官はかまわず、山の上にヒート・キャノンを発射すると、雪が溶けてなだれが起こり、司令官を飲み込んでしまいます。
宙太くんは司令官を探し出しますが、すでに息はありませんでした。
しかも、顔の皮が剥けて、ぶよぶよした白い顔の宇宙人の顔になりました。
ベルトのバックルにあった超小型の行動記録機を現像すると、銀色の大円盤機の中で、地球人に変装するところから始まっていました。
怪獣を集めて子ども遊撃隊を作っている場面があります。
しごいて猛訓練をして何も考えず、命令だけは聞く隊員を作りたいと会議で発言している場面もあります。
士官学校の校長となったロボットに、小学校の先生が送り込んだロボットを始末するついでに、
やめたいと言っている隊員をロボット部隊へやってしまえと命令している場面もあります。
にせの未来人を見破った宙太くんやサクラちゃんのいる部隊を北国の基地に閉じ込めようとした場面もありました。
宙太くんは、この事実を知らせるため、隊員を思い思いの乗り物で帰らせる「うちへ帰る作戦」を開始します。
公衆テレビ電話でお父さんと話すと、地球政府が、遠い宇宙からやって来た宇宙人の政府と同盟を結んだと知らされます。
どこから、何が侵略してくるか分からないが、とにかくこの同盟がないと地球は侵略されるということです。
もう日本だけで148箇所も宇宙人の軍隊に貸して基地を作らせているといいます。
その公衆電話のそばの道路を大またでいばって歩いていく宇宙人はまさに、死んだ司令官と同じ、白いぶよぶよした顔をしていました。
宙太くんとお父さんは、その宇宙人こそが侵略者だと悟り、戦うことを決意します。
宙太くんとサクラちゃんは、新しい日本子ども遊撃隊を作ることにします。
そこで行う訓練は、命令されて何かする訓練ではなく、何でもよく考える、だまされない訓練です。
命令は自分で、自分にするのです。
全国の小学校部隊に呼びかけ、少しずつ隊員を増やしていくつもりです。
「――また、学校が開かれて、いろんな勉強をしたり、遊んだりできるようになるかしら」
「なるさ!いや、なるようにするんだよ。さ、いこう」
宙太くんとサクラちゃんは、町のロケット鉄道の駅へむかって歩きだしました。
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★(感想
:寓意に富んだ、結構深読みできるSF童話!
2013年、このSFが現実のものに!? 現実はSFより奇なり!?)★
この本は、小学校の図書室で読んだ記憶があります。
小学校卒業前に、好きだった図書室の本を何冊か読み直したのですが、その中にこの本も入っていました。
細かいストーリーやラストは忘れていたのですが、未来人がインチキだったということと、
上官にだまされていたこと、そしてあとがきで作者の北川さんが、この物語は別々の媒体に書いた物語を
一つにまとめたものだ、と書かれていたことは、強く記憶に残っていたものです。
今回近くの公立図書館の書庫から借りて読み直したところ、結構寓意に富んだ、思想的な物語だったことに驚いています。
未来人がインチキだったというエピソードを初めて読んだとき、ものすごく驚いたことを今でも覚えています。
私も単純だから、すっかり騙されて、描かれている人々と同じように喜んで未来人を歓迎している気分でした。
そんな目出度い場で、せっかく未来からやって来た歓迎すべき未来人に、ぶしつけな質問をしてその場の楽しい雰囲気をぶちこわすサクラちゃん。
何と礼儀知らずで失礼なやつだ、空気読め(当時はそんな言い回しなし)と思っていたところ、実はインチキだったと分ったときの衝撃!
自分が本当にだまされたように思いました。
当時、私は疑うことを知らない子どもで、読むもの聞くもの全てを信じてしまう、純情なのかお人よしなのか、とにかくおめでたい子どもでした。
余りにも善意が過ぎて、疑うことを知らぬというか、世の中には騙したり騙されたりの悪い世界があることを知らない無菌状態だったのです。
だから政治では、極左でも右翼でも、ビラを読んで洗脳されて、この人達はいい人だ、応援しなくては、と思っていました。
宗教では神道・仏教からエホバの証人まで、そしてオカルト雑誌(学研「ムー」や徳間書店「ゴッドマガジン」)
に書いてあることまで真実のように信じていて、それらが頭の中で奇妙に同居している、
何でもありの混沌とした子どもだったようです。
ともかく、幼い頃の私は、活字になった情報は信頼すべきもので、書いている人は偉い人だ、疑うなんてとんでもない、と、
活字情報を信仰する気分が非常に強い子どもでした。
未来を描いたSF小説で、目の前に未来人が現れ、未来の風景を見せてくれたら、これは一も二もなく信じるほかないでしょう。
それが実はインチキだったというのですから、これはもう驚いたのなんの。
本当に衝撃を受けました。
こんな風に読者をだましておどかす類の展開には慣れていなかったみたいです。
思えば、本を読んで、衝撃の真実に驚かされた最初の経験がこの本なのではないでしょうか。
今読むと、サクラちゃんが未来人を困らせた質問の中に、
「とくべつ身分の高い人というのは、未来の日本でも、まだ、あるんですか?」
というのがあって、それに対する未来人の回答が、
「それが日本のうつくしい国がらです」
と、結構思い切った、勇気のある記述があり、驚きました。
作者のあとがきによると、このエピソードは、ベトナムの子どもを支援する会の街頭行動のとき、
ビラ童話として書いたものが原型で、その時は子どもが未来人に「ベトナム戦争はどうなっているか」
と聞いてインチキを見破るストーリーだったそうです。
作者によると、この物語の執筆当時(1967〜1968年)、ベトナム戦争を始め、色々なことが起こったようです。
特に、少年週刊誌が懸賞に、ナチス・ドイツの記章、アメリカ軍の認識票や旧日本帝国海軍士官候補生の制服をつけた事件があったそうです。
「あなたは、士官候補生の制服や、自衛隊の武器をかっこいい、と思ったことはありませんか。
みんなで、このごろは、そういうものをかっこいい、と思わせるようにしむけているので、むりもないことですが、だまされてはいけません」
と書かれています。
「読んだ人が、いまの日本がかかえているいろいろの問題、解決しなければならない問題について考えてくれるような作品で、おもしろく読めるものを書きたかったのでした」
とも述べられているように、日米安保条約や平和憲法に逆行する「逆コース」などに抗議する意図があったのでしょう。
これはまた、どんどん戦時体制が進められて、引き返すことができなくなった昭和初期の日本や、
奉仕活動義務化が検討されたり、復古的な教科書がいばりだしたり、戦争に行くことをかっこいい、
と思わせるように仕向けるマンガが人気を集めたりしている現在の日本にも当てはまる風潮ではないでしょうか。
「わたし自身、小学校から中学校へかけて、ずっと飛行機のりや、士官をすばらしいもののように思わされ、だまされてきました。
だれも、だまされている、と注意はしてくれなかったのです。
いま、わたしはおとなになって、ぜひ、これはいいたいと思うことを、この作品にも、もりました」
北川さん、私も、大人になって、やっと北川さんがこの作品で言いたかったことを理解できました。
「この本を開いて読んでくれたあなたが、だまされない人になる、歴史の進歩のためにつくす、おおぜいのなかのひとりになってくれるように、とねがって書いたのです」
今の日本こそ「だまされない人になる」ことが必要です。
北川さんがこの本の中で重視している、自分で考えることが必要です。
かつて信じてばかりいてお人よしだった私もそう思います。
今こそ、この名作『日本子ども遊撃隊』を読み返すことが必要な時代ではないでしょうか。
★(追記
:2013年、このSFが現実のものに!? 現実はSFより深刻事態なり!?
日本国民遊撃隊、スローガンは「日本を、取り戻す!」)★
……以上、旧サイトのページを修整して転載しました。
当サイトができて初期の頃に書かれたもので、当時は原稿完成の日付を記録していませんでした。
だから正式にいつ頃書いたのか正確には分かりませんが、多分、2000年代初期の頃でしょう。
2013年現在、日本を取り巻く事態ははるかに悪化し、予断を許さない状況に追い込まれています。
この作品では、子ども遊撃隊を組織した者の正体が、地球侵略を企む宇宙人でした。
宇宙人は政府やマスコミと結び付き、国民を騙しています。
主人公の宙太くんとサクラちゃんはそれに気付き、真実を伝える語り部を広める≪うちへ帰る作戦≫を
開始します。
「そうしたら、みんなで、“ほんとうは、こうなんだ。地球があぶない”と、全国、全世界によびかけてゆくのです。」
二人が歩き出すところで、物語は終わります。
その後、二人はどうなるのでしょうか。
真実を世の中に広めることはできるのでしょうか?
しかしこの物語の場合、悪い連中が人類以外の者、地球外からやってきた宇宙からの侵略者です。
姿・形を見れば、地球人とは全く違うのは明らかです。
その辺、分かりやすくて単純ですね。
しかし、もし悪い連中が同じ人間だったとしたら、こんな単純には分かりません。
そういう観点から見ると、本書で描かれた物語は、2013年の日本でより深刻で複雑な状態で現実化した、と言えるのではないでしょうか?
「ニッポンヲ、トレモロス!」
などと、首相自身が訳の分からない思考停止スローガン連発で国民を洗脳し、核エネルギー推進や憲法改悪に躍起となり、
国防軍という名の「日本国民遊撃隊」、いや、「日本臣民遊撃隊」を創設しようとしています。
宙太くんとサクラちゃんは「新日本子ども遊撃隊」を作り、≪うちへ帰る作戦≫を始めます。
我々も真実を伝える口コミを広めていかなければなりません。
「本当に地球を守るために、日本を守るために、ぼくたちがしなきゃならないことがあるんだ。
日本じゅうの人に知らせるんだよ」
「でも、テレビも、雑誌も新聞も、たいていは宇宙人とつきあっている人たちのものよ」
「だけど、なんとかしなきゃ、地球は、関係のない宇宙戦争にまきこまれちまうよ。
地球はおしまいだよ。……サクラちゃん、ぼくときみとで、新しい日本子ども遊撃隊をつくろうよ。
だんだんに隊員をふやしてゆくんだよ」
「また訓練?命令されてなにかするのはもういやよ」
「ちがう、ちがう。訓練は、なんでもよく考える、だまされない訓練だよ。
命令はじぶんで、じぶんにするんだよ」
「それならいいわ。さんせい」
その後二人はどうなっていくのでしょうか。
その答えは、現在の我々が現実に導き出さなければならない課題なのかもしれません。
権力御用達機関となったマスゴミは当然当てになりません。
ネットでの言論の監視も厳しくなるでしょう。
言論の自由を保障している日本国憲法が改悪されれば、言論の自由は失われ、
言論は弾圧され、自由にモノが言えなくなるでしょう。
それでもやらなければならないことがあるのです。
「――また、学校が開かれて、いろんな勉強をしたり、遊んだりできるようになるかしら」
「なるさ!いや、なるようにするんだよ。さ、いこう」
私たちも歩き出しましょう!
2013.07.16(火)
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