キミの友達も体験している――
SFベストセラーズ(鶴書房)

時をかける少女

  筒井康隆・作
谷 俊彦・絵
 昭和53年12月20日第37版発行
 

(あらすじ)

芳山和子は理科実験室に怪しい人影を見て気絶する。

その時から何かがおかしい。時間軸が直線的でなくなり、過去に戻る!

 和子は理科の福島先生のアドバイスに従い、この事態を収拾すべく、あの瞬間にタイムリープを……。

 

 

 

 

 

 

(感想:何度も映像化されたあまりにも有名なSF文学の名作!)

 あまりにも有名すぎる名作のため、改めてあらすじを紹介する必要ないと思います。

 この名作は、私の知っている限りで、4回映像化されています。

 1回目は、昭和47年1月に、NKHで6回連続のテレビドラマとして。

 次に、原田知世主演の角川映画として。

 3回目は、内田有紀主演のテレビドラマとして。

 4回目は、ハルキ文庫が後援した映画として。



 NHKのドラマはかなり好評だったらしく、続編も作られ、その後その時間帯はNHK少年ドラマシリーズと呼ばれるようになったようです。

 今でもファンは多く、検索すれば、インターネット上に色々な関連サイトを見つけることができます。

 NHK少年ドラマシリーズ版は、シナリオが発売されていて、その片鱗を知ることができます。
 こちらで紹介させて頂いております。↓

  ★ 20世紀少年少女SFクラブ 『タイム・トラベラー

   ↑幻のNHK少年ドラマ版! 原作とは違うパラレルワールドの大冒険が展開されていた!




 角川映画は、ちょうど私が多感な思春期時代の頃の話で、リアルタイム世代といってもいいくらいですが、当時アイドルや恋愛物、といったものを軽蔑していたので、残念ながらリアルタイムでは見ておりません。

  後に大学時代にとり・みきさんのマンガにはまり、そこで原田版時かけの話題がこれでもかこれでもか これでもかと頻出していたせいで 原田版時かけの洗礼を受け、疑似同時代体験をしたような感があります。

 この原田版は、後日テレビで放映されたのを見たことあります。

 印象に残るのは、なぜか主演の原田知世じゃなくて、脇役の岸部一徳さんです。

 (特にファンというわけじゃないんですが、私はなぜかこの方に強い存在感を感じてしまいます。

 初めてこの方を見たのは、この方が主演した清水義範さん原作のスペシャルドラマ「国語入試問題必勝法」でした。

 その時の強烈な怪演が印象に残っています。)

 

 あと、映画の終わりの方で、芳山くんが子供時代にタイム・リープして、ひな人形の前で遊んでいるシーンだとか、色々子供時代の世界を見て回るのが懐かしい感じがして良かった。

 それから、原田知世が歌う主題歌「時をかける少女」、いいですね。

 SF的な広がりを持ち、メルヘンチックに感傷的であり、文学的な深さを持っている。

 

 時代は下がって、当時全盛の内田有紀主演でもドラマ化されております。

 芳山くんに仲の悪い妹がいたり、深町くんや吾朗ちゃんとの三角関係が出てきたり、現代風にアレンジされております。

 当時断筆宣言中だった原作者の筒井康隆さんも、芳山くんの顔なじみの和尚さんとして登場し、芳山くんにアドバイスしたりしています。

 ドラマ終了時にかかるエンディングテーマが切ないけど、これもまたよかった。

 原田版や内田版では原作にないエピソード(芳山くんを中心にした3人の交友関係)を入れて引き伸ばしていますが、それもまた違和感なくうまくできたものでした。

 

 今回改めて原作を読み返してみて、結構あっさり終わっているのに驚きました。

 しかし物足りない、というのではなく、無駄なところを一切省いた珠玉の短編、とでもいうべきものです。

 中学時代の甘酸っぱい感覚が蘇ってくるかのような切ない読後感がすばらしい。

 ただ、短いということで、伏線を貼れなかったのが残念。

 最後に突然、唐突に深町くんが未来から来たタイムトラベラー(本名ケン・ソゴル。いい名だ。)だと分かりますが、原作ではそれを示唆するエピソードは何もないのです。

 深町くんは未来人を思わせる神秘性も何もなく、夢想家でゆっくりした好青年です。

 しかし私はこんな深町くんが好きだな。
 私もこんなタイプの人間になりたいですね。

 内田版の深町くんは、確かにあまりしゃべらない、何を考えているのか分からないタイプでしたが、結構顔の骨格ががっしりしていて、未来人ぽくなかったような記憶があります。

 原田版の深町くんは、髪がもじゃもじゃで、顔も結構横幅が広く、やっぱり未来人ぽくなかったような……。

(何だか無礼なことを書いています。関係者並びにファンの方、すみません。)

 一方、NHK版の木下清さんは、写真でしか分かりませんが、未来人ケン・ソゴルのイメージによく合っているように思えます。タイムリミットぎりぎりまで待ってようやく適役が現れたということです。

 実際に島田淳子&木下清コンビは好評だったらしく、続編が作られたくらいです。

 
 それにしても、未来人らしいイメージの役者、って、どんな人だ?

 私としては、テレビドラマ版「ねらわれた学園」(やはり原田知世主演です)で、京極少年を演じた役者(京本正樹だったかな?)がはまり役だったような。
 

 
 芳山くんは吾朗ちゃんより深町くんの方が好きみたいです。

 吾朗ちゃんはかわいそうですね。特に原田版ではかわいそうすぎる。

 原田版では原作にはない十年(?)後のエピソードが語られます。

 芳山くんは深町くん(本名ケン・ソゴル。いい名だ。)に記憶を消されているが、漠然とケン・ソゴルを想い続け、他の男と恋愛する気になれない。

 吾朗ちゃんは芳山くんを想い続け、芳山くん一筋ですが、芳山くんは歯牙にもかけていない。

 そしてある日、未来からケン・ソゴルが帰ってくる……。

 何で帰って来るんだ!未練がましい。
 ずっと芳山くんを愛してきた吾朗ちゃんはどうなるんだ……。
 


 原作では、タイム・リープする不思議な能力に気付いた芳山くんは悩み、深町くんや吾朗ちゃんや福島先生に相談します。

 深町くんは始め信じませんが、信じるようになります(当たり前か)。

 福島先生も芳山くんの真剣な訴えを聞き、信じ、科学的な(?)解説までして解決策まで授け、実際に解決の手伝いまでしてくれます。これは物分りのいい先生だ。

 問題は吾朗ちゃんで、全然信じようとせず、芳山くんを病院に連れて行こうとまでします。

 現実の世界では、このような態度が一般的でしょう。

 しかし、私なら信じる。

 物心ついたころから「タイム・ボカン」を見て育ち、タイムトラベルやSF的現象に親しんできたのですから、タイムスリップだとかテレポーテーションだとか四次元世界だとかいった概念は、私の中では常識となっているのです。

 それにしても、芳山くんは悩む必要ないのに。

 私なら、喜んでタイム・リープの能力を活用(悪用?)します。
 中学入学当時からやり直したいですね。
 でも、体は中学生の体に戻るのだろうか?

ドキドキ!SF王国』で、吉川豊さんは書いています。

 現実がSFに近づき、SFが現実的になると、将来、SF小説とその他の小説の境界があいまいになっていく、と。

 この『時をかける少女』は、SF的な文学小説、文学的なSF小説とでもいうべき、文学性を持った小説で、中学の教科書に載せても違和感ないと思います。
 タイトルからして文学的だし。
 


 ところで、一つ疑問に思うのは、芳山くんが見た理科実験室の人影とは何だったのでしょうか。

 その時は、深町くんは吾朗ちゃんと一緒にトイレで手を洗っているので、深町くんではあり得ない。

 タイム・リープで現れた瞬間、そこにいた過去の自分は消えてしまうので、未来から来た深町くんや芳山くんでもありえない。

 とすると、芳山くんの気のせいか?

 原作では、この辺の説明がされておりません。映画版やTVドラマ版ではどう説明されていたのでしょうか。



2001.11.3(土)

 

(2011.05.22追記)

 読み直してみました。

 以前気にならなかった記述が気になったりするものです。

 例えば、理科実験室で気絶した芳山くんは保健室で注射1本で覚醒したことになっていますが、学校の保健室で注射なんて打ちますでしょうか?

 未来人ケン・ソゴルが西暦2660年から過去の世界にやって来たいきさつも面白い。

 ケン・ソゴルが生まれたのは2649年で、まだ11歳。

 2640年には睡眠教育(潜在意識教育)という教育法が開発され、眠っている間に脳に直接記憶させることができるようになる。

 また、人間の持つ潜在能力(超能力)を開発する薬剤も研究されていて、ケン・ソゴルも大学の薬学部で“身体移動”と“時間跳躍”を一度に行う

“身体移動能力刺激剤(クロッカス・ジルヴィウス)”

の研究をしていたのだという。

 睡眠学習に超能力開発薬!何て素晴らしい時代でしょうか。

 それにしても前回も書いていますが、芳山くんが理科実験室で見た人影はどう説明がつくのでしょうか。

 吾郎ちゃんと手を洗っているはずの深町くんが実験しているなんてどう考えてもアリバイが成立せずパラドックスだと思うんですが。

 あと、消えた薬瓶や試験管の謎は?深町くんが吾郎ちゃんに先回りして片付けたのでしょうか。

 

  SF KidなWeblog
     時をかける少女 理科実験室にいた人物の正体
      http://sfkid.seesaa.net/article/236030303.html

 

 

 

 

 

 

 

 

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   ↑幻のNHK少年ドラマ版! 原作とは違うパラレルワールドの大冒険が展開されていた!

  

 

    

    [wikipedia:時をかける少女]      [wikipedia:芳山和子]  

    [wikipedia:タイム・トラベラー]    [wikipedia:続 タイムトラベラー]

 

    [wikipedia:時をかける少女 (1983年の映画)]   [wikipedia:時をかける少女 (アニメ映画)]

    [wikipedia:時をかける少女(ボクたちのドラマシリーズ)]

   [wikipedia:時をかける少女 (2010年の映画)]    [wikipedia:光の惑星]  

 

   [wikipedia:石山透]   [wikipedia:筒井康隆]

    [wikipedia:少年ドラマシリーズ]    [wikipedia:ジュブナイル]

 

 

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