21世紀を考えよう!

金の星社 少年少女21世紀のSF(9)

  テミスの無人都市 

(草川隆・作/表紙・武部本一郎/挿画・上矢津)

(1969年11月初版 1982年11月改版)

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      テミスの無人都市 (少年少女21世紀のSF 9)  

 

(あらすじ  ネタばらし注意!)

 22世紀のトウキョウ。

 ヒロシは、医者になるための教育をティーチング・ロボットに毎日教えられる生活にうんざりしていた。
 彼は本当は宇宙パイロットになりたかったのである。

 トウキョウ宇宙空港に宇宙船の発着を見に行った日、ヒロシは突発的に土星行きのロケットに密航する。
 そのロケットで、宇宙パイロットの教育を受けている少女・マミや、やはりヒロシと同じような理由で密航していたケンと仲良くなる。

 土星の衛星ミマスに着いた夜、三人は宇宙ロケットを見学に行くが、手違いでロケットが発射し、ロケットに忘れ物を取りに来ていた少女・アキと一緒に宇宙空間に飛び立つ。

 四人が気が付くと、存在しないと思われていた土星の衛星テミスらしい衛星に不時着していた。

   [wikipedia:テミス (衛星)]

 そこは、ゴシック建築スタイルの建物が建ち並び、ピラミッドやコロシアムまであった。
 そして、犬やコンピュータが、彼らを歓迎する。
 ボス犬“ゴロ”によると、人間は、200年前にいなくなったという。
 4人は、再び帰ってきたご主人様ということで、犬やコンピュータに世話されてテミスでの生活を始めるが……。


 

 

 

 

 

(感想: なかったはずの衛星テミスの失われた文明)

    (※ネタばらし注意!!)
 

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      テミスの無人都市 (少年少女21世紀のSF 9)  

 

 本作品の主人公はすごいですね〜。
 家出して土星行行きの観光ロケットに密航した家出&密航少年です。
 しかもその家出や密航の理由が、虐待から逃れるとかいうんではなく、勉強するのが嫌になったという。
 そういった少年少女が夜にロケットに忍び込んでロケットを発射させるという、礼儀正しい模範的少年少女が読むSFジュヴナイルとしては、少々荒っぽい滑り出しであります。
  
 しかしまあ、ヒロシにしろケンにしろ、家出したくなる気持ちも分からなくはない。
 この時代、3歳になると適性検査を受け、その後はコンピュータによって専門教育を受けることになっています。
 ヒロシもケンも、その方針に不満で、本当は宇宙にあこがれているのです。
 
「二百年前に生まれればよかったんだ。二十世紀に生まれていたら、自分の意志で職業を選択できたはずなのだから……」
  
とヒロシは言っています。

 確かに、職業選択は大切な選択です。私も身を持って体験しました。
 大人になってどんな仕事をするか考えることは、子ども時代に考えておく大切なことだと思います。

 それにしても、21世紀に入った2010年代の現代日本。
 就職はなかなか大変な時代です。
 正社員の数が減らされ、非正規や派遣が増え、労働者の待遇は悪化の一方です。
 格差の拡大、ワーキングプア、消費税……。
 20世紀の後半、このような時代が到来することは予想されていたのでしょうか。
   
 テミスの犬達のボスのゴロは、紀州犬ということです。
 本作品では、紀州犬は、21世紀初頭に日本地区で流行した悪性ジステンパーによって絶滅したという設定です。
 エジプト・西欧系と思われる古代テミス文化ですが、ペットの犬のボスが日本犬だというのが面白いですね。
 しかし調べてみると、日本犬にも色々あるんですね。

    紀州犬   http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B4%80%E5%B7%9E%E7%8A%AC

     日本犬   http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E7%8A%AC

     土佐闘犬   http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%9F%E4%BD%90%E9%97%98%E7%8A%AC
 
     
 置き去りにされていた犬との再会は、『南極物語』を思わせます。  
 本作品の初版は1969年11月に発行されています。
  『南極物語』の実話であるタロ・ジロの物語は、1958年から翌年にかけてのようです。

     南極物語   http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%97%E6%A5%B5%E7%89%A9%E8%AA%9E  
 

  
『南極物語』については、星新一が、地球人をペンギンの立場に置き換えたショートショートを書かれていて、私的にはそちらの方が印象に残っております。
      


 テミスの住人は200年前にいなくなり、犬やコンピュータ達は200年間待ち続け、やがて現れたヒロシ達に尽くします。
 何と従順な犬達でしょう。
 佐野美津男『犬の学校』が犬の怖さを描いた作品とすると、本作品は人間の味方としての犬を描いた作品と言えるでしょう。
 奇しくも、どちらの作品も1969年に発行されています。
  
   犬の学校 http://sfclub.sakura.ne.jp/kokudosha04.htm


   
 200年もの間、友好を保っていた犬達とロボット達ですが、4人が現れたことで波紋が広がります。
 犬達とロボット達との間で争いが起こり、成り行きで4人も犬派とロボット派に別れて別々に暮らしたりします。
『十五少年漂流記』を思わせる展開ですね。  
 


  著者の草川隆さんについては、ネット上には体系的な記述は少ないですね。
  


草川 隆(クサカワ タカシ)
  東京生まれ。国学院大学卒。
 1968年にSF同人誌「宇宙塵」に連載した長編『時の呼ぶ声』でデビュー。
 『アポロは月へ行かなかった』等のSF小説を数多く発表。
 1986年に『個室寝台殺人事件』で本格ミステリーに挑戦し、高い評価を受ける。
 以来、『上越新幹線信濃川殺人事件』『永井荷風・秘本の殺人』などのミステリー作品を発表している  

    http://www.7netshopping.jp/books/detail/-/accd/1101866150/subno/1


  
 (初期のSF作品についての記述)

つれづれなるままに―日本一学歴の高い掃除夫だった不具のブログ―

  『まぼろしの支配者』草川隆:岩崎書店   http://plaza.rakuten.co.jp/sagayama/diary/200907310000/

   『ロボット犬の反乱』草川隆:秋元文庫   http://plaza.rakuten.co.jp/sagayama/diary/200908090001/


   
 (マニアックな入門書も書かれているようです)

  小説ポール・マッカートニー(秋元文庫 S53・09)
   小説ビートルズの栄光(秋元文庫 S53・07)   http://www.garitto.com/product/9679764

   朝日ソノラマ/図鑑シリーズ・草川隆『とてもこわい幽霊妖怪図鑑』   http://www.mandarake.co.jp/information/2010/02/27/21nkn10/index.html

  『SF 世界の謎を解く』 草川隆著/たがわ靖之絵 (秋本文庫)
   ビバ!趣味生活 古本(222)  http://blog.livedoor.jp/daiden14/archives/51213080.html
   三一十四四二三劇場 SFジュヴナイルの世界  http://www006.upp.so-net.ne.jp/yoshi-s/sfsyousetu4.html

    


 (映画の脚本も書かれたようです)

  http://movie.goo.ne.jp/cast/c113910/index.html
     http://www.allcinema.net/prog/show_p.php?num_p=256631

  

   
 (漫画の原作も書かれたようです)
  
  清水正ブログ
   荒岡保志の偏愛的漫画家論(連載59)
  
  http://d.hatena.ne.jp/shimizumasashi/20110519/1305808159

    
 (その後、本格ミステリに転じたようです)
     
 1957〜1987年あたりの本格ミステリ作家達 草川隆「寝台特急富士で消えた女」
   http://blog.livedoor.jp/mystery1957_1987/archives/5380956.html

   ミステリあれやこれや 草川隆「個室寝台殺人事件」
   http://wbonbon.blog26.fc2.com/blog-entry-2410.html

 喜多哲士のぼやいたるねん 妖界天女
   http://www014.upp.so-net.ne.jp/t-kita/review0003.html    

 ジンケの推理小説図書館 草川隆
   http://blogs.dion.ne.jp/kentuku902/archives/cat_123886-1.html


   
 しかし最も特筆される作品は、

『アポロは月に行かなかった』(栄光出版社、1970年)

ではないでしょうか。


   
  1969年7月20日 アポロ11号が月面着陸。

  1970年 日本で草川隆がSF小説として、『アポロは月へ行かなかった』を発表。


  
 アポロ11号の月面着陸の翌年に出版されています。
 SF作品として描かれたフィクションのようです。
 時期的にタイムリーであるし、SFとして素材や発想やセンスが抜群にいいと思いませんか?
  
 アポロ計画陰謀論(捏造説)については、私は「不思議どっとテレビ。これマジ!?」で初めて知り、見事に騙されました。
 今ではトンデモ説とされていますが、その一番古い形が、草川隆さんのSFにあったとは。
 もっと評価されていい作品だと思います。
 私も今世で死ぬ前に絶対に読んでおきたいと思います。


 つれづれなるままに―日本一学歴の高い掃除夫だった不具のブログ―
   アポロは月に行かなかった
    http://plaza.rakuten.co.jp/sagayama/diary/200908080001/

   神保町の古書店 @ワンダー・スタッフ日記〜古書出張買い取りいたします!
    http://atwonder.blog111.fc2.com/blog-entry-700.html  ←表紙画像が見られます。 しかもオビ付き!

   月ものがたり 月探査 アポロ計画   http://homepage1.nifty.com/zpe60314/tsuki7.htm   

  [wikipedia:アポロ計画陰謀論]          

  堀晃のSF HomePage と学会レポート『人類の月面着陸はあったんだ論』(楽工社)
    http://www.jali.or.jp/hr/book/b062.html


   
爆発の臨界 (田中光二・著)
       ↑堀晃さんによると、アポロ計画に関する陰謀も少し描かれている重要作品だという。
      

     


   本読みのスキャット! 未知の文化の残骸が出てくる異星探索ものを教えてください
    
  http://d.hatena.ne.jp/kajika_eps/20120830/p10

   ↑『テミスの無人都市』もその範疇に入ると思います。

 あと、『月ジェット作戦』 http://sfclub.sakura.ne.jp/21csf08.htm  

 もそうなんじゃないかなあ。


  
 ……ともかく、草川隆さんもなかなかの実力派作家だったのではないでしょうか。 

  『テミスの無人都市』も、埋もれるには惜しい本格ジュヴナイルSFだと思います。


  
「草川隆とはなかなか骨太な作家である、という印象を持った。

 少なくとも、近作の鉄道ミステリー作家という器に収まるような作家ではないと思うのだが。」


  
……と、上でリンクさせて頂いた「清水正ブログ」の清水正さんも書かれています。

 もうSFは描かれないのでしょうか。

 

……さて、以下、結末に関するネタバレ記述となります。

 場所を移して、ネタバレ専門ブログにて続けさせて頂きます。

 ここまで読んで、本書を読んでみたいと思われた皆様、ぜひとも図書館などで探して読んでみて下さい。

 お読みになられましたら、ネタバレ専門ブログにてお待ちしております。

20世紀少年少女SFクラブ・ネタバレ談話室
テミスの無人都市 草川隆
  http://sfclub.sblo.jp/article/58318781.html

2012.09.17(月)

 

  18388980.jpg  

      テミスの無人都市 (少年少女21世紀のSF 9)  

 

 編集後記

    ご意見ご感想お寄せ下さい。

 

 

 

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タイム・トラベラ− 筒井康隆「時をかける少女」より

 

    [wikipedia:ジュブナイル]

 

  stainway テミスの無人都市 ver.1   http://ameblo.jp/stainway/entry-11200805714.html

  Sorry, Under Construction. ANEX テミスの無人都市/hidden and forgotten(仮題) ver.2
     http://sucanextest.seesaa.net/article/261766707.html

 

  なお、「テミスの無人都市」の本の画像は、モズブックス様、から頂きました。

    http://mozubooks.com/?pid=18388980

 

 

   

 

 

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20世紀少年少女SFクラブ

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