角川文庫SFジュブナイル
時間監視員(タイムウォッチャー)シリーズ2
緑の宇宙群島
荒巻義雄・作
中村銀子・絵
1980年
★(登場人物)★
栗田健治……この小説の主人公。北関東のU町に住む。中学三年生
秋原真一……東京で建築学を学ぶ大学生
秋原安男……真一の弟、万能スポーツマン。高校二年生
杉本ユカリ……銀河同盟のタイムウォッチャー
マギー・デネブ……銀河同盟のタイムパトロール
悪博士ボルボック……反銀河同盟の暴れん坊。悪の天才。
★(あらすじ)★
栗田健治は秋原安男と共に化石探しをしていた。
そこに現れた、子どもじみた顔をした髪の毛のない小男から三葉虫の化石をもらう。
家に帰ってから調べると、謎の言葉が刻まれていた。
復讐ノ時ハ迫レリ、反銀河同盟
数日後、健治達は杉本ユカリから呼び出される。
安男や真一も記憶回復剤を処方され、「五万年後の夏休み」事件を思い出す。
銀河同盟のタイムパトロールであるマギー・デネブの父と姉がこの時代で消息を絶っていた。
健治達は正式にタイムウォッチャー補となり、捜査に協力することになる。
彼らは二十二世紀に人類が建設した“緑の宇宙群島”に到着、デネブ教授とアイリアを誘拐した“海サソリ軍団”の基地を捜索する。
目指す基地がデボン紀にあると判明し、彼らはデボン紀に向かう。
そして彼らは“海サソリ軍団”の大首領こそ、かの仇敵ボルボック博士だと知る!
ミリオネア・マインド・セット 脳波誘導+アファメーション+サブリミナルで潜在意識にインプット
★(SFジュブナイル版・少年探偵団となるべきシリーズ 二作で中断か?)★
「五万年後の夏休み」の続編なんですね〜。
懐かしいメンバーが再結集、といっても今回は典子ちゃんと幸江オバさんは北海道旅行に行くということで、最初に少ししか登場しません。
その代わり、マギー・デネブという銀河同盟のタイムパトロールが登場。
杉本ユカリはその助手で、健治達はそのまた補助のタイムウォッチャー補という名目です。
しかし前回も指摘したけど、こんな大役を素人に任せていいんでしょうか。
もし殉職でもしたら責任問題はどうなるんだろうか。
それで、デネブ博士とアイリア姉さんはなぜか20世紀のこの時代に別荘を持っていて、そこで海サソリ軍団に拉致される。
何で20世紀に滞在していたのでしょうか。
そして健治達は必死でデネブ博士達の消息を捜査するんですが、拉致される前日にでもタイムスリップして博士達を安全な場所に保護するなり犯人を現行犯で逮捕するなりすれば事は速いんですが、それは言わない約束でしょうか。
22世紀に人類は宇宙に群島を建設して移住しています。
地球にはだんだん人が住まなくなっている、と記述されています。
ここら辺、前作「五万年後の夏休み」につながる布石でしょうか。
本作品で描かれている22世紀の地球圏と、前作で描かれた五万年後の地球の描写はつながっているんでしょうか。
22世紀の宇宙群島の詳細や、デボン紀の描写など、ディテールがしっかりと描かれています。
科学に立脚したSFの真骨頂でしょうか。
デボン紀の海の中の描写やデボン紀の料理を食べる場面なんか、見てきたようなウソといいましょうか、かなり詳しく説明されています。
そういえば前作では五万年後の生き物や植物は現代とほとんど同じように描かれていました。
「アフター・マン」状態にはならなかったんでしょうか。
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デネブ博士の研究とは、何か?
原生代に存在した天然の原子炉から発生する放射線が当時の生物に突然変異を起こさせ、
それが生物の進化に多大な影響を与えたのではないか……という研究。
素人目には結構魅力的な学説だと思うんですが、現実の可能性はどうなんでしょう。
海サソリ軍団の狙いは、原爆を大量に製造し、20世紀の世界を脅迫して地球を乗っ取ること。
そのためにはウラン235が必要で、デネブ博士が発見したウラン探鉱の地図が必要だったのである。
……しかし20世紀の地球を乗っ取ったら歴史が変わり、海サソリ団本来の時代である30世紀も変わってしまい、
彼ら自身も存在しなくなってしまうんでは?
ここら辺のタイムパラドックスを考え出すと難しい問題になりそうです。
そして本作で明らかになったボルボック博士の正体!
彼は600世紀の遺伝子合成技術で創られたミュータントであった!
試験管の中で生まれ、機械で育てられた彼は本作で異常な性癖を露わにする。
そして今回もまた捕まってしまったボルボック博士。
前作もそうでしたが、ちょっとあっけなかったかも。
何だかタイムボカンシリーズを思わせるアクションシーンです。
海サソリ団の部下のチョビヒゲやデブと合わせて三悪トリオになってしまうし、過去と未来と昨日と今日をタイムスリップするし……。
あと、健治達は22世紀の宇宙群島でハンググライダーを通じて22世紀の少年・少女達と仲良くなり、捜査に協力してもらいます。
まるで少年探偵団だ。
銀河同盟の記章を敵に忍ばせると、残留電波を利用して追跡することができます。
まさにBDバッジだ。
そして、今回捕まってしまったボルボック博士は、怪人二十面相よろしく次回には脱獄して憎き健治達に挑戦を挑むはず……?
20世紀のSFジュブナイル版・少年探偵団となるべきシリーズだったのではないでしょうか。
何で中断してしまったんだろうか。
もし続いていれば、今後どのような展開がされていたのでしょうか。
さて、作中の主人公たちは、回を重ねるにつれて、ふたたびどのような大冒険の旅に出かけることでしょうか……。
できれば、マギーの故郷があるという、銀河の中心に近い鎖状都市型宇宙国家、ユーフロピアまでも、行ってみたいですね。
(読者への手紙 あとがきに代えて より)
……しかしその大冒険の旅は書き継がれることはなかった。
それらの物語は、読者一人一人の想像力の中で続いていくことでしょう。
2010.09.12(Sun)
★(悪のトッチャンボーヤ・ボルボック博士)★
ボルボック博士、なかなか印象深いキャラです。
少年時代に「五万年後の夏休み」
を読んだ時も非常に印象に残り、
その1枚だけ掲載された後ろ姿と共に、その後の人生でも折に触れては思い出したりしていました。
左から「五万年後の夏休み」SFベストセラーズ版、角川文庫版、「緑の宇宙群島」におけるボルボック博士。
後ろ姿だけというのも想像力をそそりますね。
果たして正面から見るとどんな顔だったのでしょうか。
「海底超特急マリンエクスプレス」に登場する悪役版シャラク(写楽保介)をイメージすればいいのでしょうか?
ボルボック博士については私の他にも思い入れある方が色々書いているはずだと思って検索してみましたが、出てきません。
代わりに、『三つ目がとおる』に登場する怪植物ボルボックが出てきました。
私は手塚治虫作品は色々読みましたが、『三つ目がとおる』はまだ未読でした。
ぜひとも読んでみないといけません。
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★(時間監視員シリーズについて)★
本書『五万年後の夏休み』は鶴書房SFベストセラーズで発行されました。
当初はシリーズ化が予定されていたようですが鶴書房が倒産し、角川文庫に移って続編が出版されましたが、第三作以降は出ていないようです。
その後ケイブンシャ文庫で再刊されたようですが、勁文社も倒産しています。
SFベストセラーズ22 五万年後の夏休み
昭和53年11月20日 初版発行
(なお、私が所持しているのは昭和54年7月10日 3刷発行版。かなりいい売れ行きではないでしょうか。)
(角川文庫版)
時間監視員(タイムウォッチャー)シリーズ1 SFジュブナイル 五万年後の夏休み
昭和55年1月15日 初版発行
昭和55年8月30日 三版発行
挿絵はSFベストセラーズ版と同じ、中村銀子さん。旧版の再収録ではなく、新たな描き下ろし。
図書館で借りた本は7カ月で三刷を重ねています。かなりいい売れ行きではないでしょうか。
また、これらの発行日を見比べると、鶴書房の倒産は昭和54年頃ではないかと思われます。
鶴書房の倒産直後に角川文庫版が発行されたところをみると、当時かなり読まれていた作品ではないかと推測されます。
また、“SFジュブナイル”と銘打たれています。
当時角川文庫が少年少女向けにSFジュブナイルシリーズを出していたのだと思われます。いい時代ですね〜。
時間監視員(タイムウォッチャー)シリーズ2 SFジュブナイル 緑の宇宙群島
昭和55年2月15日 初版発行
昭和55年4月10日 再版発行
(ケイブンシャ文庫版)
五万年後の夏休み
平成3年6月
緑の宇宙群島―時間監視員シリーズ
平成3年10月
昭和55年(1980年)から平成3年(1991年)の間には、11年のブランクがあります。
11年前に2冊で中断したジュブナイルシリーズが再刊されたとは、どのようないきさつがあったのでしょうか。
なお、勁文社の倒産は2002年(平成14年)のことです。
三頌亭日乗 荒巻義雄「五万年後の夏休み」
http://blogs.yahoo.co.jp/kms130/55773939.html
復刊ドットコム 復刊リクエスト投票 No.7248 SFベストセラーズ(国内)
http://www.fukkan.com/fk/VoteDetail?no=7248
↑SFベストセラーズの復刊リクエスト活動です。ご協力お願いします。
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