夢と冒険の世界への確かな翼――
SFベストセラーズ(鶴書房)
五万年後の夏休み
荒巻義雄・作
中村銀子・絵
1978年
生きのびるには
みんなの知恵をよせあうしかない
五万年後へとばされた彼らを待つのは
恐るべき原始の世界だった
荒巻義雄のえがく冒険世界!! (帯より)
★(登場人物)★
栗田健治……この小説の主人公、中学二年生
栗田典子……健治の妹、小学校四年生
秋原真一……健治の近所に住む大学生
秋原安男……真一の弟、高校一年生
杉本ユカリ……健治の級友、クラス委員
折原幸江……健治のおば
悪博士ボルボック……稀代の悪の大天才。銀河同盟系でも五本の指の中に入る頭脳を持つと言われ、宇宙の全時空域で指名手配されている。
★(表紙見返しより)★
夏休み最後の日、安男が室内で小型UFO(イオンクラフト)の飛行実験をやるという。
小さな模型ではあるが実験は成功したかに見えた。
が、やがてイオンクラフトは狂ったように旋回を始めた。
空間は激しくゆがみ、波うつ。
健治は空間の向こうに、真黒な世界を見た……。
一面の野原、うっそうたる大森林。
北斗七星はそこが五万年後の世界であることを告げる。
冒険につぐ冒険。
彼らはもっている知識を武器に、生存への道を求めるが……。
今、ノリにノル著者が放つ、初めてのジュヴナイル、いよいよ登場!!
★(あらすじ)★
夏休み最後の日、秋原兄弟の実験室で小型UFO(イオンクラフト)の実験が行われた。
実験は成功したかに見えたが、やがて空間は激しくゆがみ、次元の裂け目を作り出した。
一同が送り込まれたのは、未来都市が廃墟となって放置される五万年後の関東地方だった。
実は杉本ユカリは銀河同盟の沿岸監視員(タイムウォッチャー)だったのである。
時間貿易船が悪博士ボルボックに乗っ取られ、この世界で行方不明になっていた。
一同はユカリの調査に協力することを誓い、行方不明になった時間貿易船を探すため、筏を作って利根川から東京湾に出て調査する。
健治と安男が不在時、ボルボックに操られた未来の原人達に襲撃され、不意を突かれた真一やユカリ達が捕らわれてしまう。
救出に向かう健治たち。ボルボックとの対決の時が迫る!
★(初めて読んだジュブナイルSF!
「ジュブナイル」は一体どこから来てどこに存在してどこに行ってしまったのか……)★
今、ノリにノル著者が放つ、初めてのジュヴナイル、いよいよ登場!!
本書の表紙見返しのあらすじの最後の一文です。
また、裏表紙見返しは、写真入りの作者紹介です。その最後の一文にもまた謎の言葉が。
本書は筆者のジュヴナイル第一作にあたる。
はて、カタカナの難しそうな言葉が書かれてるぞ。一体これはどういう意味だ!?
初めて本書を手に取った時の印象がこれでした。
これまで読んできたような子ども向けに書かれた作品や、子ども向けに書き直された名作作品とは違う、ちょっと年上の世界を感じる言葉でした。
だから後ほど書くように、本書を読んだのは手に取ってから随分後のことになります。
巻末には後書きに代えて荒巻さんから読者の皆様に、かなり熱い手紙が掲載されています。
その冒頭にまた謎の言葉が出てきます。
(1)これまで私は十何冊ものSF小説や推理小説を書いてきましたが、ジュベナル作品として意識して書いたのは今度がはじめてです。
あれ?ちょっと違うぞ。
ちなみに、角川文庫版ではこうなっています。
(1)これまで私は十何冊ものSF小説や推理小説を書いてきましたが、ジュベナイル作品を意識して書いたのは今度がはじめてです。
“イ”が入ってるぞ。
……というように、この言葉自体、生まれて間もない頃で表記が統一されていなかったのでしょう。
ちなみに、ウィキペディアでは「ジュブナイル」と表記されています。
「事実上ライトノベルという言葉に置き換わったジャンルであるため、70-80年代にのみ使用された歴史的用語として認識されている節もある。」
ガーン!もう使われていな歴史的用語となっているのか。
とはいえ、あまり普及した用語とは思われず、私もあまり見たり読んだりした記憶がありません。
「ジュブナイル」が現役バリバリで全盛だった時は一体いつだったのでしょうか。その時私は一体どこで何をしていたのでしょうか。
「ジュブナイル」は一体どこから来てどこに居てどこに行ってしまったのか……
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A5%E3%83%96%E3%83%8A%E3%82%A4%E3%83%AB
↑ありがたいことに、私のサイト『
20世紀少年少女SFクラブ』が外部リンクされています。
リンクされるにふさわしいようにもっと充実さていくつもりです。
★(高度に発達した未来都市の廃墟 その間何があったのか……)★
物語の主な舞台は、五万年後の関東平野。
既に人類はいなくなり、高度に発達した未来都市も遺跡となって大自然の中に放置されています。
三万年ぐらい前に大規模な地殻変動があったらしく、未来都市は完全に破壊されています。もっともその頃には既に人々は住んでいなかったようだということです。
人類は地球を捨てて宇宙に行ってしまったんだろうと説明されています。
一体この間に何があったんでしょうか。色々想像できそうな、幾つもSFが描けそうな広がりのあるテーマです。
映像にしたら面白いでしょうね。
NHK少年ドラマどころか、本格SF大作になりそうな舞台設定です。
ミリオネア・マインド・セット 脳波誘導+アファメーション+サブリミナルで潜在意識にインプット
★(時間監視員(タイムウォッチャー)、一種の四次元海峡、UFOが見られる原因……
これはもしかしてものすごいアイディアだ)★
クラス委員の杉本ユカリは先祖代々銀河同盟の時間監視員(タイムウォッチャー)だった!
時間監視員とは、銀河同盟が各惑星で現地の人間を採用して任命しているのである。
銀河系の中心から約三万光年離れたわれわれの太陽系が存在する区域は、一種の四次元の海峡になっているのだという。
「それで、この四次元の海を通過する銀河同盟の船は多いわけですの……。みなさんがご覧になるUFOもね、この時間の海峡を通過する際に残す航跡のようなものなんですの」
「とすると、UFOがひんぱんに往来する地球のちかくってのは、つまり、マレー半島とスマトラの間にあるマラッカ海峡みたいなものなんだね?」
「ええ、そうよ。それ、うまいたとえだと思うわ。マラッカ海峡というのは、インド洋と太平洋をつなぐ重要な航路でしょう。ちょうどそんなように、太陽系の付近は銀河同盟のタイムトレード船がひっきりなしに行き来してるんですの……」
われわれの太陽系の付近は超空間の海峡部にあたっているので、四次元の海峡流とでも言うべき、速い潮が流れている。そして、往々その四次元的渦が衝突し合って超空間の大渦をつくりだすのだという……。
平安時代や室町時代の昔から世界各国で現地採用されていた時間監視員(タイムウォッチャー)!
色々な物語を想像できる、大きな広がりを持つ概念です。
また、UFOに関する説明も、なかなか納得いくものがあります。昔描かれたジュブナイルにチラッと出てきて忘れ去られるには惜しい仮説です。
角川文庫版の解説で川又千秋さんが、荒巻義雄のデビュー作『大いなる正午』についてこう書いています。
「SFの極北とも言える途方もない概念を、難解な手法を自在に駆使して一篇の小説に書き上げました。」
「荒巻さんは非常に知的で完成された文学観、芸術観を土台にして、一種前衛的な冒険、挑戦といった地点から作家としてのスタートを切ったわけです。」
……と、そんな本格SFの片鱗が見られるような素晴らしいアイディアではないでしょうか。
……と、今回読んで思ったものです。
実は私はこの作品は何度か読み返し、かなりの部分を覚えていて時には折に触れて思い出すような部分もあったのですが、このアイディアについてはまるっきり失念していました。
ちょっと本格的な理論や理屈が入ってくると弱いんでしょうか。
……と上ではかなり賞賛したんですが、ちょっと考えると無茶なことも。
そもそもタイムウォッチャーとは監視と銀河同盟への通報が主目的のはずですが、今回は故障した時間貿易船の修理に必要な部品を届けに行っちゃってます。
しかも代々のタイムウォッチャーとはいえユカリさん自身はまだなりたてで自信がなく、超能力を使って計画的に身の回りの人々を巻き込みました。
クラスメイトの健治はともかくとして、健治人脈の秋原兄弟や幸江オバさんとは初対面のはずですが、一体どうやって知ったのでしょうか。
それはともかく、いくら初心者で自信がないとはいえ、民間人を巻き込んでいいのでしょうか。
しかも今回は、銀河同盟が危険視する大悪人ボルボック博士が絡んでいることが明らかになりました。
知らないことだったとはいえ、成り立ての初心者のタイムウォッチャー一人にこんな大役を任せ、しかも民間人まで巻き込んでいたとあれば、成り行きによっては銀河同盟の重大な責任問題に発展するところでした。
……まあ、そうならなずにお話になってしまうのがジュブナイル小説の(都合の?)いいところなんですが。
★(未開世界での生活に勉強は活かせる、と作者からのメッセージ。
とはいえ私は30年以上、一体何を経験し、何を学んで生きてきたのか)★
この本の巻末には、「読者への手紙 あとがきに代えて」という作者・荒巻義雄さんからのメッセージが収録されています。
そこで荒巻さんは、自分にも受験生の子どもがいて、勉強も生活の上で役に立つんだ、ということを示すためにこの本を書いた、と述べられています。
実際本書では、星座の変化からタイムスリップした時代を割り出し、場所の緯度や経度なんかも推測しています。
また、筏を作る際にピタゴラスの定理から三角定規を作ったり、地球が2分間自転する間にどれだけの距離を進むか、などという問題も出てきます。
「中学や高校で習う勉強が、どんなに大切かってことが、君たちもわかっただろう……。」
「中学や高校の勉強はね、何も受験のためにやるわけのもんじゃないんだよ」
と、一流大学の建築学科に在籍する真一さんは健治や安男さんに毎日勉強することを命じます。
私もこの部分は非常に印象に残り、その後も折あるごとに思い出しました。
だからその後の人生で「勉強なんかしても何の役に立つんだ」と疑問に思うことがなかったのは、本書もその一役を買っていたはずであります。
本書を読んだ当時は私よりはるかに年上だった真一さん。
今ではもうはるかに真一さんより年上になりました。しかし知識の上では全く真一さんにはかないません。
星座を見ることの重要性は本書で思い知ったはずなのに、残念ながら星座に興味は湧かず、その後も星座の知識は増えていません。
その他、魚や鳥を捕ったりそれらを料理したり保存食にしたり塩を作るとか筏をつくるとか……。こういった生活上のサバイバル知識も30年前に本書を初めて読んだ頃から全く増えていません。
もし今、私が真一さん達と同じような境遇になったとしても、生き抜いていく知識もバイタリティもないでしょう。
私は30年以上、一体何を経験し、何を学んで生きてきたのでしょうか……。
★(印象的な幕切れ そしてお話は続く……)★
目出度く大悪人ボルボック博士を逮捕して現代に戻って来た一行。
丁度タイムスリップしたあの日のあの時間に戻るのですが、元の場所ではなく山の中に降り立ちます。
そこからわざわざバスに乗って帰ってくるのが、懐かしい時代に無事戻れたことをしみじみと感じさせていい演出です。
夏から秋に向かう頃の夜の山中の空気が感じられそうなくらいです。
一行は翌日また集合して話し合おうと約束して解散するのですが、別れ際にユカリが白い錠剤を渡します。
「時間旅行の影響が出るといけないから」
……ということです。これを飲まないと浦島太郎のように年を取ってしまうのでしょうか?飲まないと大変だ。
しかし健治は家に着くとすぐに前後不覚に眠ってしまい、錠剤を飲むのを忘れてしまいます。
そして次の日、杉本ユカリが転校したことを知り、他のメンバーも冒険の記憶を忘れてしまったことに気付く。
あの錠剤は時間旅行の記憶を消すためのものだったのでしょう。
この設定、印象的です。
その後の人生でも折に触れてこのシーンを思い出し、もしや私も昨日まで大冒険をしてたのを忘れてるんじゃ?と思ったりしました。
いや、タイムパトロールの時間旅行に限らず、もしやUFOアブダクションだとか陰謀論だとか、
我々は実は色々な経験をしてるのを記憶を消されてるだけなのかもしれませんよ。
……そしてお話は続きます。巻末の「読者への手紙」で荒巻さんは書いています。
「そして手紙のつづきは、この次の本でまた書きます……。
主人公の栗田健治は、ふたたび異常な休暇を経験するはずです。
時間監視員の杉本ユカリもまた元気で登場する予定です。この二人のコンビを応援してやって下さい。
(昭和53年盛夏)」
健治はまた杉本ユカリと再会して活躍するようです。
他のメンバーもまた記憶を取り戻して再結成されるのでしょうか。
……私もまた続編を入手し、再び時間旅行の冒険に同行したいと思います。
角川文庫SFジュブナイル
時間監視員(タイムウォッチャー)シリーズ2
緑の宇宙群島
(↑続編はこちらです。)
★(時間監視員シリーズについて)★
本書『五万年後の夏休み』は鶴書房SFベストセラーズで発行されました。
当初はシリーズ化が予定されていたようですが鶴書房が倒産し、角川文庫に移って続編が出版されましたが、第三作以降は出ていないようです。
その後ケイブンシャ文庫で再刊されたようですが、勁文社も倒産しています。
SFベストセラーズ22 五万年後の夏休み
昭和53年11月20日 初版発行
(なお、私が所持しているのは昭和54年7月10日 3刷発行版。かなりいい売れ行きではないでしょうか。)
(角川文庫版)
時間監視員(タイムウォッチャー)シリーズ1 SFジュブナイル 五万年後の夏休み
昭和55年1月15日 初版発行
昭和55年8月30日 三版発行
挿絵はSFベストセラーズ版と同じ、中村銀子さん。旧版の再収録ではなく、新たな描き下ろし。
図書館で借りた本は7カ月で三刷を重ねています。かなりいい売れ行きではないでしょうか。
また、これらの発行日を見比べると、鶴書房の倒産は昭和54年頃ではないかと思われます。
鶴書房の倒産直後に角川文庫版が発行されたところをみると、当時かなり読まれていた作品ではないかと推測されます。
また、“SFジュブナイル”と銘打たれています。
当時角川文庫が少年少女向けにSFジュブナイルシリーズを出していたのだと思われます。いい時代ですね〜。
時間監視員(タイムウォッチャー)シリーズ2 SFジュブナイル 緑の宇宙群島
昭和55年2月15日 初版発行
昭和55年4月10日 再版発行
(ケイブンシャ文庫版)
五万年後の夏休み
平成3年6月
緑の宇宙群島―時間監視員シリーズ
平成3年10月
昭和55年(1980年)から平成3年(1991年)の間には、11年のブランクがあります。
11年前に2冊で中断したジュブナイルシリーズが再刊されたとは、どのようないきさつがあったのでしょうか。
なお、勁文社の倒産は2002年(平成14年)のことです。
私が所有するSFベストセラーズ(昭和54年7月10日3刷発行)版の表紙。
三頌亭日乗 荒巻義雄「五万年後の夏休み」様のページ
http://kms130.livedoor.blog/archives/20359309.html
には、初版の写真が掲載されています。
帯付きとは貴重。帯マニアの私としてはうらやましい。
私の場合、父からもらった時点で既に帯はありませんでした。
SFベストセラーズの背表紙の「SF」のロゴは青と紫の2種類あります。
2つの写真を比較すると、「五万年後の夏休み」の初版が発行されてから3版の発行までの間に青から紫に変更したことが分かります。
★(30年後の夏休み――僕はどこからコースを離れ、人生を誤ったのか)★
今から大体30年前の夏休み。僕は妹と一緒に祖母の家にお泊まりに行っていた。
父方の祖母の家……といっても、4人家族が住む隣の家なのであるが。
祖母と大祖母が二人で住んでいるその家は、幾つも部屋がある2階建てで、広い庭もある大邸宅であった。
風呂に入って寝ようという時に父親が訪ねて来て、僕に本を2冊くれた。
或いは誕生日のお祝いという意味だったのかもしれない。僕の誕生日は夏休み真っ最中にあるのだ。
その2冊の本とは、子ども向けの伝記『岩崎弥太郎』とこの『五万年後の夏休み』だった。
岩崎弥太郎の子ども向け伝記って、珍しいですね。普通ならあまり取り上げられない人物です。
出版している会社の名前も“ダイナミックセラーズ”って、インパクトあります。
目録を見ると、幕末関係の人物を取り上げたシリーズのようでした。
父親としてはこういう成功者になってほしい、という意図もあったのでしょうか。
私も何度か読み始めようとしましたが、残念ながら全然面白くないのでいつも最初の数ページだけ読んで中断してしまいました。
本を途中で放り出すなんて、本好きだった私には滅多にない珍しいことでした。
まあそれほど私にとって、こういった財界の成功者とは最初から縁が全くなかったということでしょう。
何の因果か今年になってNHK大河ドラマ関係で、岩崎弥太郎がブレイクしています。
私にとっては子どもの頃から名前だけは知っていた人物だったのに。
↑ダイナミックセラーズの「名作伝記小説」シリーズ。
全て南条英樹という方が書かれていて、全5巻のようです。
父親がくれた2冊のうちのもう一冊、それこそがこの、『五万年後の夏休み』だった。
思えばこの本との出会いが私のその後の人生を大きく変えることになったのかもしれない。
この本、表紙の絵こそはマンガのようで読みやすそうだったのだが、本の版型がちょっと変わっていた。
一見したところ、大人が読む小さい活字ばかりの本という感じだったのである。
いつも読んでる子ども向けの本のように大きくもなく、表紙が硬くない。
(つまり、ちょっと小さめのペーパーバックスタイルだったのである。)
そして字も小さくて、挿し絵の割合も少ない。
おまけにジュヴナイル小説だとかいう訳の分からん小説のようである。
SFが私の人生に影響を与える時は未だ来たらず。
しかしその萌芽は確実に本棚の中に存在されたのである。
そしてその時は来た。数年後、それこそ夏休みの時間がある時だったと思われる。
タイトルが面白そうなので気まぐれに手に取って読み始めたところ、今までにない新鮮な展開に我を忘れて没入することになってしまった。
これは何だ、SFというのか!こんな面白い世界があったのか!
取りあえず、この本が出ているシリーズの他の作品を読んでみたいと思った。
本には(22)という数字が打っている。だから他に少なくとも21冊あるはずだ。
しかし残念ながらこの本にはシリーズ目録が付いていなかった。他にどんな本があるのか分からない。
しかし目録を読むことが好きだった私は、あることに気付く。
所持していた他の本『イワンの馬鹿』という本の巻末にこのSFベストセラーズの目録が掲載されていたのである!
同じ会社・鶴書房から児童名作シリーズが出ていて、その中の一冊だったのだ。
この目録を頼りに、僕は1冊1冊鶴書房のSFベストセラーズを集めていった。
書店も図書館もない田舎の町である。
本を買うのは電車に乗って都会に出て書店に行かなくてはならない。
母親の用事に着いて行って本屋さんに行って本を買ってもらうのが楽しみであった。
(当時はインターネットもなく、本は当然書店で買うものだったのである。ネットで本を買うことが多い今、隔世の感である。)
しかし鶴書房はこの『五万年後の夏休み』を発行直後に倒産し、書店には新しい補充が来なくなっていた。
私がどのようにして1冊1冊集めていったか、いずれ書くこともあるだろう。
父親としては模範的で堅めな本と娯楽的で読みやすい本の2冊をバランス良く選んだのかもしれない。
しかし僕は岩崎弥太郎的世界には見向きもせず、SFの世界に強く惹かれてしまったのだった。
SF的世界は僕の人生に大きく影響を及ぼすことになった。
しかしそれは悪いことではなかった。一つの大きなチャンスだったのかもしれない。
ここで得られたSFとの運をうまく活かし、大切に育てていけば、プロとして仕事とすることはできないまでも、
他人とは違ったユニークな世界を得ることができ、人生に彩りを添え、ユニークな人間として職場や地域の名物人間として生きていけたであろう。
しかしSFとは夢とロマンの世界である。当たると大きいが少々扱いが難しい。
残念だったのは、折角できたSFとの縁をうまく生かせなかったことである。
好きなことに目標を定め、それに努力を注力していれば、少なくとも一般的な家庭的幸せを得ることができただろう。
しかし残念なことに、僕は徹底的なマイナス思考人間であった。
長所や好きなことを伸ばすことよりも、短所ばかり見て苦手なことを伸ばすことばかり考えていた。
ちぐはぐな人生であった。全てに渡って中途半端であった。
そしてまた、夢やロマンや感傷性ばかりが先行して、現実の生活や対人関係をうまく処理していくこともできなかった。
そして結局、目指すべき方向に行く努力はせずに、間違った方向に行こうと報われない無駄な努力ばかりしてきたのである。
思えばこの本と初めて出会った30年前の夏休み、僕の未来には希望に満ちた人生が開けていた。
大きな邸宅に住む祖母の家にお泊まりし、父親からは誕生プレゼントの本をもらう世界の延長。
確かに人より恵まれた有利な境遇にいた。そして確かに人より頭脳にも恵まれていた。
それが一体なぜこうなってしまったのだろう。
今思い出しても絶望的になりそうなくらい、色々な要因が次から次へと重なってがんじがらめになり人生が崩壊してしまった。
人気がある戦国武将として日本では織田信長・豊臣秀吉・徳川家康の三人が定番であり、中国では曹操なども定番である。
しかし僕が興味があって色々知りたいのは、有利な状況にありながらなぜか天下を取り損ね、
勝者の引き立て役や単なる脇役として描かれることも多く、あまり人気ないマイナーな
今川義元、朝倉義景、三国志では袁紹や劉表などなのである。
30年後の今、僕は場違いな所に居て場違いな人生を歩み、一般的な家庭的幸せも得ていない。
あの頃に住んでいた家も、祖母が住んでいた家も今は存在しない。
あの日誕生プレゼントの本を買ってきてくれた父親は今年の夏、肺梗塞で倒れて九死に一生を得た。
あの日には確かに存在していた希望に満ちた未来には到達することはできなかった。
そしてあの日には思いもしなかった境遇で、迷いに満ちた人生を送っている。
全てにおいて恵まれた境遇におり、全てにおいて有利な条件を与えられていた僕は、何でそれを活かすことができなかったのか。
何でこんなところでこんなことをしているのか。
僕はどこから幸せに向かうコースを離れ、人生を誤ってしまったのだろうか。
2010.08.31(Tue)
三頌亭日乗 荒巻義雄「五万年後の夏休み」 http://kms130.livedoor.blog/archives/20359309.html
時間旅行〜タイムトラベル 「5万年後の夏休み」荒巻義雄 http://timesf.blog130.fc2.com/blog-entry-1868.html
復刊ドットコム 復刊リクエスト投票 No.7248 SFベストセラーズ(国内)
http://www.fukkan.com/fk/VoteDetail?no=7248
↑SFベストセラーズの復刊リクエスト活動です。ご協力お願いします。
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