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■続々テレビ化の人気作品群!!■ SFベストセラーズ(鶴書房)

見えないものの影

       小松左京(作) 赤坂三好(絵) 月日初版発行


  (表紙画像は こちら より拝借しました。 )

 ★(あらすじ)
 
 とある吉田一家で原因不明の腕時計の盗難騒ぎが発生する。
 やがてそれは周囲でも多発していることが判明。
 達夫とクラスメイトは調査を開始する。
 やがて、ネズミやゴキブリが人々を襲う事件が頻発し……。

 
 ★(主な登場人物)

  吉田達夫……主人公。高校生。
  
吉田良子……達夫の妹。中学2年生。原因不明の難病にかかる。
  
良介君……達夫の母親の弟。警察官。
  
山際敏彦……達夫のクラスメイト。電気屋の息子。時々家業を手伝っている。
  
小野田時彦……達夫のクラスメイト。クラス一番の秀才。高級船員の父親の外国土産の高級腕時計を無くした。
  
鷲野玲子……達夫のクラスメイト。新聞部員。
  
海野先生……生物学の教師。
  
大泉先生……達夫の担任の英語教師。愛称“ダンナ”
  
立原源三郎博士……海野先生の師匠。政治家の教え子も多い大学者。


 ★(感想:本書を読む者は今後の人生がもっと楽しくなる!
    「いつかは俺もSFジュヴナイルの主人公だ!」症候群なんだよ~~~っ!)


 
 (以下、ネタバレ注意!!)


 日本SF界の巨匠・小松左京のジュヴナイル作品です。
 小松左京というと、『日本沈没』『復活の日』をはじめ、重厚な作品で知られていますが、こういったSFジュヴナイル作品も描かれていたのですね。
 SFジュヴナイルの王道ともいうべき本作品では、SFジュヴナイルの楽しさが堪能できます。

 語り口は独特の雰囲気を持っています。
 まず冒頭「消える品物」の章。
 語り手がうっかりして物を亡くしてその後ひょっこり出てきた経験を面白おかしく語っています。
 この辺の語り口、落語のマクラを思わせます。

「もし、君たちの家の中や身のまわりで、いろんな品物が、次から次へと消えはじめたら――  そのときは、あきらめるだけですまされるだろうか?」

……と上の着物を一枚脱いで物語に入っていきます。

 物語は、とある吉田家から始まります。
 主人公の達夫から始まって、家の中の時計が次々と紛失します。
 達夫の妹・良子が用心のために腕時計をつけたまま寝ていると、ぐにゃぐにゃした毛むくじゃらの手に腕時計を取られてしまいます。
 警察官である達夫の母親の弟・良介君によると、このような不思議な事件が最近増えているという。

 さてそこからがSFジュヴナイルの面白さの発揮です。
 達夫やその友人・山際敏彦の推理や調査により、ネズミが腕時計を奪って何かの機械を組み立てているのではないかという疑惑が浮上。
 ジュブナイルの主人公は事件の中心にいます。
 そして、事件の解決の端緒を開くのです。

 主人公と友人から始まった輪がヒロインの鷲野玲子(新聞部)や生物学教師・海野先生に広がり、海野先生の出身大学研究室から動物学の権威で首相はじめ政治家の教え子も多いT大名誉教授の立原源三郎博士につながり……。
 一方、おじの良介ラインからネズミ捕り会社の社長につながり、警察署と共同対策が始まり……。

 確かに達夫が事件解決の端緒を開きましたが、物語中盤からは妹の良子さんが原因不明の病気にかかったこともあって活動力が低下します。
 代わりに電気屋の息子で既に家業も手伝っている山際敏彦の活躍が目立ってくるというのもいい。
 主人公がスーパーマンである必要はないのです。
 各論に関しては各論担当の友人が活躍する方が王道なのです。
 なお主人公の達夫は最後の場面で、宇宙人からの誘導指令のため夢遊病になってしまった妹と共にネズミの大群に殺されそうになるという“見せ場”が用意されています。


    


 自主的に「ネズミ戦争対策協議会」を組織して大活躍の高校生たちに対して御大・立原博士は言います。  

「君たち、戦後の若いものは、もっと意見を大胆に発表する習慣を身につけていたんじゃなかったかね?〝まちがうこと”に対する勇敢さを、もっていたんじゃ……。」

「若い人たちは、そんなバカな、とか、現実がどうこうなどと思わない。事件のパターンを、ありのままに受けとる。」


 これがSFジュブナイルの楽しさです。
 SFジュブナイルの世界では不思議な事件が起こり、主人公が立ち向かいます。
 世界を助ける主人公になった気分になれるのです。
 かつて私もそんなSFジュヴナイル的な事件に巻き込まれ、解決することを夢見ていました。
 しかし事件は起こらず、友人の輪も広がらず……。  

  と、本作品の楽しさについて熱く語ってきました。
 しかし大人になって常識的・冷笑的になってしまった頭でよく考えてみると、少しおかしな点が見られます。

 結局、この不思議な事件は、どこか別の星から来た宇宙人が黒幕だったのです。
 その謎の宇宙人がネズミやゴキブリなどに指令を発し、ネズミやゴキブリ達に電子部品を集めさせ、命令中継増幅機を作らせて行動の指令を与えていたのです。
 何とネズミがドライバーを持って立っている写真も撮られています。
 しかし、ここまで来るとマンガです。

 どこか遠くの星からやって来るほどの科学力があるのなら、何もわざわざネズミに中古の部品を集めて組み立てさせなくても、最初から新品を大量生産してネズミをコントロールしたらいいのではないでしょうか。

 物語前半では電子部品を集めて機械を組み立てていたネズミやゴキブリ達は、後半では集団を作って人間を襲い始めます。
 これこそが本当のネズミ・ゴキブリ軍団の正しい描き方でしょう。
 宇宙人が本気なら最初からネズミ・ゴキブリ軍団に人類を襲わせておけば良かったのです。
 しかし、ネズミが時計を奪って何か作っているという絵になる発端がSFジュヴナイル的には必要だったわけです。

 さて、ネズミやゴキブリ達を操っていた黒幕は、電波を逆探知されて追い詰められ、呆気なく退散します。
 人類よりはるかに科学力がありそうなのに、このあっさりした引き方はあっぱれです。
 ジュヴナイル小説にはよく、宇宙からの侵略というテーマがあります。
 しかし、宇宙から飛来している以上、圧倒的な科学力を持っているはずなので、あっさり負けてしまうのはよく考えるとおかしなことです。
 前々回に更新した「学園魔女戦争」でも、その辺について考察してみました。


空想科学ジュヴナイル論争 宇宙からの侵略設定について
    http://sfclub.sakura.ne.jp/sf15.html


 しかしさすがに小松御大。その辺の疑問を考慮して本作品では

「人類をテストしていただけ」

という画期的な仮説を展開しています。

 「連中にしてみたら、ちょっと、人類をテストしてみただけのことかもしれんな。この程度で、あやくく食いとめたものの、次には、どんなテストをされるかわからんぞ。」

「今度のことにかぎらず、何か地球以外のものの手によって、ひき起こされたことは、ひょっとすると、歴史の中に、まだまだたくさんあるかもしれん。」  


 今回だけでなく過去の歴史にもあったかもしれない!
 そこで熱心なジュヴナイルSF読者は、歴史に思いをはせるのです。

「もしかしたら、あの事件も宇宙人が関与していたのかもしれないんだよ~~~っ!」

 もちろん、黒幕は一旦退却しただけなので、今後の未来にも似たようなことがあり得るのです。
 今後も油断はできません。

「もしやこの事件は、あのネズミやゴキブリを操っていた宇宙人が再来襲してやっているのかもしれないんだよ~~~っ!」

 本作品を読んだ熱心なSFジュヴナイル読者は、この先の人生で何か不思議な事件に遭遇すると、本作品のことを思い出すことが運命づけられてしまうのです。
 
いつかは俺もSFジュヴナイルの主人公だ!症候群です。
 確かに見る人から見れば少々痛いかもしれませんが、適度のレベルで進行を抑えていれば、その後の人生が楽しくなるのではないでしょうか。
 さすが小松御大、矛盾を説明するばかりでなく読者の思考までコントロールしています。攻めています。
 いやあ優れたSFジュヴナイルの影響力って、すごいですね。
 もう一生忘れることはないでしょう。
 小松左京師のジュヴナイル作品、他にも色々読みたくなりました。

 
 ところで、本作品には達夫達の担任として大泉なる英語教師が登場します。
 ネズミの怪行動について、達夫達は最初に大泉先生に報告するのですが、頭が固いのかてんで相手にされません。

「ネズミというやつは、いろんなものをひくもんだよ―わしらのいなかでは、ネズミがどうやって、卵をとるか知っとるか?一匹のネズミが、卵をこわさないようにかかえて、あおむけにひっくりかえる。するともう一匹が、卵を抱いたネズミのしっぽをひっぱって行く。―これはほんとうだ、と、いつもじいさんがいうとったが、わしのじいさんは、村一番の大ボラ吹きだったから、あてにはならん。」
 
……なんて愉快なこと言ってくれます。
 それに対して達夫たちも
 
「ダンナはだめだな。」

「もはや、ロートルだ。―怪奇なる現象に対する鋭敏な感受性がない。イマジネーションがない。ロマンティシズムが……。」

「まあ、そういうな。ダンナ―大泉先生は、戦争へ行ったりなんかして、たいへんなはらんばんじょうの体験を味わってきてるんだ。あれで、人一倍、敏感なんだよ。――だから、ちょっとやそっとのことじゃおどろかないんだ。」



  


 挿絵を見ると、何となく大泉先生に小松左京の面影を感じませんか?
 本作品では大泉先生の登場はこれ1回きり。
 ネズミ軍団との対決が本格的になった物語後半で大泉先生も再登場して活躍して頂きたかったのですが、このページ数では無理だったか。
 


    [wikipedia:鶴書房]

  [はてなキーワード:鶴書房]



SF日本おとぎ話

 キンタロウの秘密/カチカチ山/ウラシマジロウ/シロの冒険
/花さかじじい/新サルカニ合戦/むかし、むかし



 日本のおとぎ話をSF風に再話。
 はるか昔のことなのか、それとも遠い未来の出来事なのか。
 一つ一つのお話は他愛無いといえばそうですが、
 物語は円環構造を取って循環しているようです。
 壮大な時間の流れを思うと、厳粛な気分を感じたり。
                            (2017年3月8日)

解説・SF入門10講

 福島正実さんの解説のテーマは、「世にも不思議な出来事」。
 UFOや消失ミステリー(四次元消失?)などについて色々紹介されています。
                                       (2017年3月12日)                                           





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