クラスメートが宇宙人……!?

SFベストセラーズ(鶴書房)

時間砲計画

豊田有恒・作 

遠藤昭吾・絵 

 

時間砲計画 豊田有恒

    時間砲計画 (1967年) (ジュニアSF)

 

(あらすじ)

  中学生の主人公・和久井映二は、アメリカからやって来たクラスメイト・西条亜由子と仲良くなる。
  亜由子の父親は、著名な電子工学者・西条堅太郎博士であった。
  映二と亜由子は、西条博士に、研究中の実験を見せてもらう。
  オメガ粒子を物体に放射すると、物体はどこかに瞬間移動してしまうのである。

  「科学には、善も悪もない。使い方しだいで、科学は、人類の味方にも敵にもなるのだ。」

 と悩む西条博士。
  その夜、研究所は、亜由子もろとも、深い穴を残して消えてしまう。
  武部技師は、西条博士達の行方を捜索するために、アメリカからもう一人のオメガ粒子の研究者・ライアン教授を呼ぶことを思いつく。
  飛行場にライアン教授を迎えに行く映二。
  しかし今度は、映二が飛行機もろとも別世界に飛ばされてしまった!
  ライアン教授は、オメガ粒子を悪用する何者かによって過去に飛ばされたのでは、と推理する。
  ここは 20万年前の日本だ!と推定するシカゴ博物館のエッケルト博士。
  映二達はヘリコプターで調査し、先に飛ばされていた西条博士をはじめ研究所の研究員達と合流。
  20万年前の日本で共同生活を始めるが……。

時間砲計画 豊田有恒
 


 

 

(感想:タイムスリップ大冒険! 魅力あるキャラ設定! ジュヴナイルSFのお手本!)

  SFジュブナイルの王道・お手本ともいうべき名作ですね。
  本作品もそうですが、私が子どもの頃、過去や未来にタイムスリップしたり、異次元に紛れ込んで冒険した後帰って来る
  ……といった設定の読み物やマンガがよくあったものです。
  最近の子ども向け読み物やマンガにもそんな設定のがあるのでしょうか。
 
  作者の豊田有恒さんは虫プロでアニメ脚本を描いていたというだけあって、ストーリーは活気があってアニメ的であるし、何よりキャラ立ちがすごい。
  主人公の味方の冒険家や学者、わがままな金持ちや裏切り者といった悪役、他の人々を助けるために自分を犠牲にする人々……。
  
  例えば、主人公の映二が後に裏切りが発覚する悪人を訪ねるシーンがあります。
  その時、裏切り者の母親がバナナをご馳走してくれるシーンがあります。

  「さあさあ、おあがんなさい。あなたくらいの年ごろは、食べざかりなんですから、遠慮はいりませんよ。」

  こんな悪人にも母親はいるんですね。事件後、どういう気持ちで過ごされたのでしょうか。お前の母ちゃんは泣いてるぞ。
  
  ロックフェラーとロスチャイルドを足して2で割ったようなロックチャイルド四世もいいキャラです。
  金持ちを鼻にかけた傲慢のため仲間外れになり、時々乱暴して映二や中尾二尉に柔道技で投げ飛ばされるのがお約束という。

時間砲計画 豊田有恒 お約束のお仕置きシーン! 時間砲計画 豊田有恒 ライアン教授ざんす。トニー谷じゃないザンス。


  シカゴ博物館のエッケルト博士は、珍しいものを発見すると、うなりだすという設定です。
   「うーむ、むむむ……。」
  シカゴ在住のはずですが、なぜか日本の古代地層に詳し過ぎませんか?


時間砲計画 豊田有恒 明石原人がせめてきたぞっ

 

時間砲計画 豊田有恒 俺たちゃ悪役3人組(ロックチャイルド四世&ブローカーのルイス&ボクサーくずれのリック)



  
  事件また事件、見所の連続である本作品の最大の見せ場は、最後の大立ち回りシーンです。


   「(●● ※ネタバレ防止のため伏字)のほうも、まけてはいなかった。研究所のまわりじゅうを、スッポリとつつんでしまうオメガ粒子のしゃ断スクリーンを用意していた。ボタンひとつ押すと、研究所のあちこちにそなえつけてあった発生器がうごきはじめ、バラ色の光線をふきだし、研究所をバラ色のスクリーンで、スッポリおおってしまった。」


   ……と、オメガ粒子バリアーで守られた研究所を警官隊や自衛隊が攻撃と、虫プロというより永井豪のロボットアニメさながらの展開です。
  私は『マジンガーZ』における、ピグマン子爵との攻防戦を思い出してしまいました。
 

時間砲計画 豊田有恒  研究所の攻防!時間砲光線発射!



  本作品に登場した魅力あるキャラ達は、いつまでも生き生きと記憶の中で生き続けていくでしょう。
  そして本作品は、高度成長期に描かれたジュブナイルSFの古典的名作ではないでしょうか。
  そのためか、本作品はその後も角川文庫や講談社青い鳥文庫に再録されています。
  今後も読み継がれていってほしい名作だと思います。

 

 

 

 ( 解説・SF入門10講 タイム・トラベルの心得 )

  初期のSFベストセラーズのお楽しみは、福島正実さんによる解説です。

  本作品の解説は、タイムトラベルがテーマです。

  タイムマシンを発明しても、うっかり使うと大変という、起こり得る事故について幾つか述べられています。

  タイムマシンでなく操縦者の時間が移動したり、、タイムトラベルして出現した場所が空中だったり海中だったり地中だったり
などの事故について述べた後、最後に、すごいことが書かれています。

  時間旅行は、自然な時間の流れに影響を与え、ゆがめることになるのではないか。

 「もしも、時間旅行がひんぱんにおこなわれるようになったら、このゆがみは、だんだんに大きくなり、
 時間の流れそのものに、大きな影響をあたえることになりはしないでしょうか?」

 「そして、そんなエネルギーの暴発は、おそろしい大地震とか、大津波とかをひきおこすかもしれません。

  いや……もしかすると、その影響は、すでにおこつつあるのかもしれません。最近つづいておこる正体ふめいの地震は、
 未来の人たちが時間旅行をはじめたためおこったものではないでしょうか?」

 

  タイムトラベルが自然に影響を与えて自然災害を引き起こす!!!

  こんなこと、考えたことありませんでした。

  しかし確かにそうですね。本作品『時間砲計画』でも「作用・反作用の法則」に触れられていましたが、時間においても
 「作用・反作用の法則」が働き、それが降り積もって大きな影響を与えるかもしれませんね。

  さすがに福島正実さんの発想力はすごい。

  しかし、日本が戦後に立ち上がって経済的に振興し、未来に希望を持っていた頃に描かれたジュブナイルSFの解説です。

  普通なら、「未来にはこんな夢のような発明が実現するかもしれません。楽しみですね。」

 と楽観的な論調に終始してもいいところを、このようにタイムスリップの負の一面に触れて終わるとは、なかなかシビアです。

  しかし、それは健全なことかもしれません。

  本作品にも

  「科学には、善も悪もない。使い方しだいで、科学は、人類の味方にも敵にもなるのだ。」

  「科学を悪用するのも、善用するのも、これからの時代をになう若い人たちにまかされている、大きな宿題なのだ。」

 という記述があります。

  科学のいい面だけを見て悪い面を無視しているのは、人類の理性の退歩といえます。

  そして実際、2011年3月11日、日本に住む我々は科学の負の一面を目の当たりにしました。

  本来ならばその日以来深く反省し、国の方針を大きく変えなければいけなかったのです。

  ところが、学ぶことを知らない愚かな日本人は、崩壊したはずの原子力神話の時代に逆戻りし、破滅への道に突き進んでいるのです。

  我々は、以下のことを肝に銘じて、未来を選択しなければならないでしょう。

 

  「科学そして民主主義には、善も悪もない。

  使い方しだいで、素晴らしい未来を得ることができるし、愚かな未来を招くことにもなるのだ。」

 

 

 

2015.10.22(ĵaŭdo)

 

     時間砲計画 (1967年) (ジュニアSF)    
4061486357 時間砲計画 (講談社青い鳥文庫)
豊田 有恒 的場 健
講談社 2003-12-15

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     [wikipedia:豊田有恒]   [wikipedia:オメガ粒子]

 

 

 

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