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■キミの友達も体験している■ SFベストセラーズ(鶴書房)

いて座の少女

         中尾明(作) 木村正志(絵) 1978年12月20日初版発行

 ★(あらすじ:表紙折り返しより)

  その年、中学生の間で正体不明の“自殺病”が急速にひろまりつつあった。
  患者は高所から飛び降りる衝動にかられ、中学生、島田ミカの周囲でもクラスメートが次々と“飛んだ”。
  自殺者の大半は、左右の体のアンバランス―右デカ左デカ―のめだつ若者たちだった。
  “自殺病”と“右デカ左デカ”の奇妙な関係は何を物語るのか!?三百年も前に描かれた謎の予言図とは!?
  遠い星の予言と、現代の青春群像をおりまぜながら「黒の放射線」の著者がはなつSFロマンの世界!!

 
 ★(主な登場人物)

  島田ミカ……中学2年生。いて座。
  
花井恵子……やぎ座
  
宮本雪江……おうし座 以上、仲良し3人グループ
  
坂上きく子……通称キック。不良グループの長。成り行きでミカやタケシと同行し、事件に巻き込まれる。おひつじ座。
  
宮タケシ……ミカのボーイフレンド。おとめ座。
  
西山幸男……私立大学の教授。おとめ座。



 ★(感想:元日に大地震発生!!占星術テーマのSF!結末は“特命リサーチ200X”風!!)

  中尾明さんの『黒の放射線』を読みたくて探したのですが、行方不明になっていました。残念!
  代わりに同じ作者の『いて座の少女』を読んでみました。
  『黒の放射線』と同じく、主人公は少女です。
  SFジュブナイル作品で少女が主人公とは、珍しいのではないでしょうか。
  のみならず本書の主要登場人物の人間関係は、主人公ミカの友人二人に女番長のキックが
王子様役の優男・宮タケシを中心に回っているという女性上位です。
  主人公グループの一般的少女の人間関係が描かれたり、不良少女グループによる際どい描写が描かれたりと、
一般的SFジュブナイルとは異質な場面が出てきます。
  少女小説からライトノベルに至る系譜に属するような作品です。

           
←SFジュブナイルらしからぬ


  SFベストセラーズは後期にはこのような作品も収録され、幅が広がっています。
  もしSFベストセラーズがその後も続いていれば、SFジュブナイルの世界はもっと発展していたのではないでしょうか。

     [wikipedia:少女小説]   [wikipedia:ライトノベル]


  さて、そういった少女中心の物語に一人、重要な大人の男性が登場します。
  西山幸男教授(乙女座)。
  通称ベレーのおじさん。ミカの母親の兄で、西洋史の研究者。
  かなりの変人で、世間の常識からはみ出したところが多い。
  50を超えた年齢だが未だに独身。ベレー帽が恋人で、多数のベレー帽に女性の名前を付けて所有している。

     

……それで、この西山教授がロンドンの古本屋で発見したのが、ウイリアム・リリーが書き残したという知られざる予言書!

  このウイリアム・リリー、実在の高名な占星術師のようです。

   オカルトの部屋 ウィリアム・リリー
     http://www5e.biglobe.ne.jp/~occultyo/uranai/ririi.htm
   パピレスプラス ウイリアム・リリーの予言とは、どんなもの?
     http://plus.papy.co.jp/plus/sc/kiji/1-1027606-84/

    
クリスチャン・アストロロジー 第3書 (太玄社)
 ←訳書も出ています


        


  ↑これが、ベレーのおじさんの西山教授が倫敦の古本屋で発見した知られざるリリーの予言書に収載されていたという挿絵。
  但し、本文に記された記述と照らし合わすと、一部簡略があるようです。
  (シオマネキは9匹描かれているようです)
  そしてその予言の解釈は、いて座(11月23日から12月21日)の時期に、日本で大地震が起こる、という。
  そしてさらにイギリスの占星術師が星座や惑星の位置を考慮して検討すると、それがまさに今年のことであった!!
  な……、なんだってえ~~~~~!!!
  後に西山教授は、正月発売の週刊誌の「新しい年を占う」という特集に、“占星術研究科”という肩書きで、
この予言について記事を書いています。

「占星術上のいて座、または天文学上で太陽がいて座にいる12月20日から1月16日の期間に、
関東・東海・北陸に大地震の起こる可能性が高い」
!!!
  
  な……、なんだってえ~~~~~!!!
  しかし、“ベレーのおじさん”の気楽な生活、いいですね。
  好きな学問を研究したり時々雑誌に寄稿したり。
  (私も順調に成長していれば、このような生活を送っていたかもしれません。)
  主人公のミカも、この、母親の兄だというおじさんからいい影響を受けているようです。
  実際、おじさんという存在は、父親よりも気軽な立場だと言われています。
   
  「おじさんは父親とちがって自由な風を運んでくれる存在だと誰かから聞いたことがある」
  「常識にとらわれず、本流からも外れ、本業が何かすらよく分からないくせに、その言葉に妙な説得力があるのがおじさんの魅力」
  「他人の家に来て、少しいい加減になっているぐらいが人間ちょうどいいのかもしれない」


  ↑以上、おじさんの哲学 [著]永江朗 の書評より
    http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2014051100012.html

  三谷幸喜さんも書いていました。

  「ためにならないこと」や「面白いこと」や「知っておいても役に立たないこと」や
「知っておいたら、むしろ危険なこと」を子供たちに教える役割を担う。だから彼らは「おじ」に憧れる。

    https://twitter.com/aryamashoukai/statuses/391544922509037568

  また、ギターデュオ・ゴンチチのゴンさんかチチさんのどちらかも、同居して暮らしていたおじさんから音楽を教わったそうです。
  
  そういえば、私の妹にも子どもが2人います。あいつらから見れば、私はまさにおじさんです。
  私も良きおじさんでありたいのですが、現実には、精神を病んで社会から落伍した気の毒な人です。

    [wikipedia:おじ]

  それで、本書『いて座の少女』の物語の前半は、ミカが聴いている深夜ラジオのDJのおしゃべりであったり、
占星術の記述が延々と続いたり、ぐだぐだした展開で、どう結末をつけるのかと思っていたら、
後半、しかも正月元日の日にタケシやキックやミカが不良少女グループに襲われたり、
飛び降り病の発作に襲われたり、予言書通り大地震が発生したりと怒涛の展開で、最後、何とか謎解きが行われて終了。
  一応、筋道が立った説明です。
  『特命リサーチ200X』みたい。
  
  以前、『特命リサーチ200X』で、
“超常現象やら幽霊やらUFOなどの減少は、全て、地磁気の異常で説明できる!”
という乱暴な仮説を紹介していて、これで説明がつくのならすごい!と思ったのですが、それを思わせる結末です。

    [wikipedia:特命リサーチ200X]


編集後記および参照リンクなど  
↑コメントお待ちしております。


↑お知らせありがとうございます。


    [wikipedia:中尾明 (翻訳家)]

  (なお、冒頭の表紙画像の出典について。
  貴重なSFベストセラーズ版帯付き画像は、ヤフオクから頂きました。(その後削除されました)
  徳間文庫コスモス版の表紙画像は、 駿河屋さんから頂きました。)


  
万年週末占い研究青年の覚え書き  星座のスキャットで開運?
    http://iching.seesaa.net/article/432267796.html
     ↑本作品中で触れられていた、“忘れられた開運法”について紹介してみました。




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