21世紀を考えよう!
金の星社 少年少女21世紀のSF(10)
火星地底の秘密
(瀬川昌男・作/表紙・岩淵慶造/挿画・坂本健三郎)
(1969年11月初版 1979年3月改版)
★(登場人物)★
ボス 14歳
ノーヘル 14歳
アクビ 13歳
コロ 11歳
ケンジ 8歳 ノーヘルの弟
チーコ 5歳 ボスの妹
ロッテ 10歳くらい ドイツの少女
ハンス ロッテの飼うネコ
ロボッタン 開拓用ロボットRM五九六三
★(あらすじ ネタばらし注意!)★
火星開拓移民を乗せて火星に向かう宇宙船第十三マルス号。
仲良し悪ガキ6人組は宇宙船内を探検し、間違って貨物ロケットを発射させてしまう。
自動操縦によってロケットは火星の北極地方に着陸。
通信設備が壊れたため、通信は不可能であった。
待っていても救助されることは不可能だと悟った彼らは探検車を組み立て、開拓基地を目指す。
火星の大地で彼らの前に現れたのは……。
★(感想: 悪ガキ達の大冒険! そして未知の生命体との遭遇!!)★
(※ネタばらし注意!!)
少年少女21世紀のSFシリーズでは、最初と最後の巻が瀬川昌男作品となっています。
「チタンの幽霊人」は少々物悲しくてハードな作品だったのですが、本作品はもう少し対象年齢が下で、分かりやすい冒険活劇となっています。
それにしても、宇宙船の中を勝手に探検して貨物ロケットを発射させてしまうなんて、滅茶苦茶な悪ガキ達ですね。
宇宙版『十五少年漂流記』といったところでしょうか。
7人の中で年上でまとめ役となるのは、ボスとノーヘル。
ボスは力が、ノーヘルは頭脳が武器です。
それで、この2人のうちで本当に指導者的役割を果たしているのは、実はノーヘルの方なのです。
ノーベル賞までは無理だが、ノーヘル賞ぐらいなら……という立派なおでこを持った少年。
大人顔負けの知識で機械を活用し、一同を導いていきます。
やはり宇宙時代は力ではなく、頭脳が頼り・知は力なりですね。
それで、ボスの方も心優しい力持ち……といいたいところですが、
火星着陸の際に衝撃を抑える“緩衝座席”が2つしかない、と知った時、自分が座りたい、と思ってしまうという情けなさ。
結局この時もノーヘルの知識が皆を救ったという、やはり宇宙時代は力ではなく知識が必要ですね。
貨物ロケットの通信機は壊れてしまい、それが彼らを長い期間冒険させる原因となります。
貨物ロケットの中には酸素製造機などの機械もあるわけですが、通信機の類はなかったのでしょうか?
今ならスマホや携帯電話でしょうか?
探検車に通信機能がないのはおかしいのですが。
……まあ、そうだとお話にならないか。それは言わない約束よ。
探検車を運転する彼らの前に現れる火星の植物。
歩く植物やら蜘蛛の巣のような罠を作る奇妙な植物体です。
当時、火星にはこのような植物がいるかもしれないという想像の余地があったのですね。
(著者あとがきによると、マリナー4号が火星探査する前に描かれた作品ということで、当時期待されていた火星像が反映されているということです。)
悪ガキ達が火星不時着以来、物がなくなったり、変な音が聞こえたり、人影が見えたりするという奇妙な事件が発生。
そして、火星の細菌に感染して行方不明になったチーコとロッテが無事に救出される。
実は火星に昔から存在していた火星の知的生命体が彼らを見守っていたのである!
彼らは地下にしみこんで、火星中に広がっている。
「つまり、火星そのものが、生命を持って生きている、と言ったってかまわないんだ。」
何だかよく分からない割り切れない存在です。
宇宙という未知の世界が開けていた当時。
日本のSF作家である瀬川昌男さんは、こういった生命体を想像されたのです。
東洋思想風の哲学が背景にありそうなユニークな生命体です。
それでもし、このような生命体があるとすれば、人類がやって来て開発を始めれば、どのようなことを思うのでしょうか?
この物語ではまだ開拓が始まったばかりでもあり、子ども達を見守ってくれたわけなのですが、
今後、開拓が進んでいけば、その対応に変化が出てくるかもしれません。
地球上での自然破壊やエコロジーについて考える際にも応用できそうな概念であります。
★(謎の少女・ロッテ)★
この物語では、日本から火星に向かう悪ガキ6人組に加え、ドイツの少女・ロッテが合流します。
宇宙歩行の方法の知識があるなど、何かいわくありげなのですが、その行動の動機などは説明されていません。
重要なヒロインとなるのか、と思わせて、結局最後まであまり存在感がなかったという残念に終わったキャラでした。
著者解説によると、本作品の原作は、1964年9月から翌年7月に読売少年少女新聞に連載された「わんぱく火星旅行」。
始めと終わりの一部を少し短縮し、それに伴って一部を書き改め、全体に手を入れたとのこと。
この短縮された部分に、ロッテの行動の動機などが記されていたのでしょうか?
(↑画像はもう一人(一機?)の重要キャラ・ロボッタン。)
★(宇宙標準語エスペラント)★
「チタンの幽霊人」 「怪惑星セレス」
でも登場しましたが、本作品でもエスペラントが宇宙時代の標準語として登場しています。
「ドアには、宇宙標準語のエスペラント(国際語)で、「特別な指示あるときのほか立ち入り禁止」
という意味のことが書いてあったのだが、学者といわれるノーヘルでさえ、エスペラントはまだカタコトである。」
「おくさん、エスペラントで話してくれませんか。エスペラント、エスペラント……わかりますか。」
エスペラントは昔からある国際語だが、いまでは宇宙の標準語になっている。宇宙で外国人と話すときには、エスペラントを使うのがエチケットだ。
「アハ ファ……パルドヌ ミン!」
金髪の婦人はやっと気がつくと、エスペラントで同じこをと(原文ママ)くり返した。
「パルドヌ ミン(ごめんなさい)。ミアフィリーノ ロッテ マルアペリス(娘のロッテがいなくなりました)!」
このシリーズでは10巻のうち3巻で、エスペラントが宇宙時代の人類共通後として描かれているわけです。
他に月ジェット作戦でも「宇宙標準語」という概念が出てきますが、これはエスペラントとは関係ないようです。
宇宙開発や国際協調など、人類の科学的・平和的発展が想像できた時代。
国際共通語という概念も現実性を持っていたのでしょう。
そして私たちは現実に21世紀を迎えたわけなのですが、その実態はどうなんでしょうか?
青山さんちの部屋(別館) 作家 瀬川昌男とエスペラント http://bluamonto.web.fc2.com/segawa.htm
SF名文句・迷文句第306集 「おくさん、エスペラントで話してくれませんか。エスペラント、エスペラント…わかりますか。 」
http://dabensya.sakura.ne.jp/meimonku/monku306.htm
2014.05.15(木)
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