■本格派が愛読する!■ 推理小説ベストセラーズ(鶴書房)
アンドロボット’99
★(まえがき/著者 (一部))★
「この小説は、舞台を一九九九年にとっていますが、一九九九年といえば、もうあと二十年たらず、諸君がおとなになったころの事になります。そのころの世界はどうでしょうか。諸君もきっと、主人公のミキ夫くんたちと同じように、このようなすばらしい科学の発達した世界で、元気な活動をしてくれることと思いながら、筆をとりました。」
★(登場人物)★
千葉ミキ夫……いたずら好きの、元気な中学3年生。
ロボ助……ミキ夫たちロボット部員が作ったアンドロボット。
伊藤のり雄……ミキ夫の従兄弟で、クラスメイト。
村上卓二……ミキ夫のクラスメイト。級長。
渚ルミ江……ミキ夫のクラスメイト。
宮崎ジュン……ミキ夫のクラスメイト。猿飛佐助を尊敬する、すばしこい少年。
ノダ・コータロー……火星人基地を探索中、ミキ夫達が日本アルプス山中で知り合った地元の少年。
伊塚先生……ミキ夫たちのクラス担任。実は物理学のえらい学者で、色々な発明をしている。
頭を宇宙兵みたいに短く刈り、年中チェック・ジャケツですましているので、
“チューグン”(宇宙軍の略)と呼ばれている。
堺部長……伊塚先生と知り合いの警察官。
モリ・ロメオ・ユウスケ
モリ・ディノ・ユウスケ……火星連合の代表として地球に在住している双子の兄弟。
★(あらすじ)★
1999年、9月。新学年である。
放課後、ミキ夫たちロボット部員は、学校対抗試合に出場させるアンドロボット・ロボ助をテストしていた。
その最中、ロボ助が転校生・阿里佐ノノと思念同調して、ノノの思考通りに動くことが分かる。
この成り行きを見守る、屋台のパン屋に化けたモリ・ディノ・ユウスケ。
彼は対火星戦争のために秘密兵器を開発している伊塚先生を見張っていたのである。
思念同調で動くロボットの迷走回路の研究材料にするため、彼は下校途中の阿里佐ノノを誘拐する。
当時、地球と火星の都市連合の関係は、緊張していた。
地球は、国際連合をもとにして世界連邦という地球単一政府の理想を、形だけは実現していたが、実際は依然として各国がそれぞれに勢力争いをしている状態だった。
そしてそれらが、てんでに火星の産物や土地を欲しがって取り合いをするものだから、火星現地の植民者たちは、迷惑のし通しなのだった。
そしてついに火星の全都市が一致団結して地球本国に反抗し、独立を宣言し、P’99+0という脅迫状を送りつけてきたのである。
独立を認めなければ地球は1999年で終わりだ、2000年はないぞ、という「99プラス・ゼロ計画」という意味である。
火星の科学は地球より進んでいて、強力なヘリウム爆弾なら24個、中性子爆弾なら12個で全地球を一気に爆発できるそうである。
思念同調で動くロボットの秘密も、この地球対火星の戦争の勝敗を左右するはずであった。
ミキ夫たちロボット部員5人は、ノノを救出するために大活躍。ロボ助や知り合ったノダ・コータローの活躍もあり、火星人基地の日本支部や地球支部まで突き止める。
地球と火星の関係も、地球側が火星の要求の大部分を認める譲歩をし、火星側も将来完全に独立する条件での自治で矛を収めた。
ところがそのわずか3日後、火星軍の円盤が地球上の主要都市を一斉に攻撃、地球は大混乱に陥る。
マインドコントロールを得意とする、生き残っていた原住の火星人が、火星都市連合の人々を洗脳し、地球を攻撃してきたのである。
月での戦闘も地球側の完全な敗北に終わる。
原住火星人があがめていた、巨大なガマガエルがクモのような十本の手足を持っているような不気味な神が復活し、宣言する。
「ただいまから、全月世界を、原住の火星本土人を王とする新・火星王国の領土として接収する。反抗する者はようしゃなくZ線によって消去されるであろう。地球人はのこらず一さいの武器をすてて降伏せよ。また月在住の地球系火星人は、ただちに背面ツィオルコフスキー地区の、旧火星連合基地に集合すべし!」
禅の奥儀に達したと言われている名僧・鎌倉円覚寺管長の昌山禅師は、ロボ助に秘策を授け、宇宙空港に差し向ける……。
著者のまえがきには、旺文社の「中二時代」に連載された作品に加筆したもの、と書かれています。
当時の雑誌には確かに、こういったSFやミステリーものの読み物がありました。旺文社の中○時代、高○時代。学研の中○コース、高○コース。
小学生向けには、小学館の小学○年生、学研の○年の学習・科学。
現在、このような学年向け雑誌はほとんどなくなり、一部だけ細々と残っております。
今の子は少年ジャンプやマガジンなどを読むのでしょうか。
しかしマンガだけの雑誌より、色々と総合的な記事が載っている学年別雑誌に郷愁を感じます。
本書は1969年3月に発行されています。
物語の舞台はその30年後、1999年です。
「人類がはじめて月に到着して基地をもうけてから、いつのまにか二十年たった。おなじように、火星にはもっとたくさんできた基地の町々が、協力して都市連合をつくってからも、もう十年になる。」
という一文が当時の未来観を如実に現しています。
1979年 月に基地を設ける
1989年
火星に都市連合ができる
日本で万博が開催された高度成長期真っ只中の頃、これが未来に対する典型的なイメージだったのでしょう。未来に対して最も楽観的であれた時代。
それから少し後の私が子どもだった頃も、それは続いていました。
私が読んでいた学年別雑誌には、まさしくこのような未来のイメージがふんだんに登場し、21世紀は全く別の世界が訪れる、と信じていたものです。
1973年 五島勉 『ノストラダムスの大予言』発行
しかし、いつから未来のイメージに夢を持てなくなってしまったのでしょうか。
今の子ども達の未来のイメージは、どのようなものでしょうか。
かつて未来に夢を持って育った私達。
夢という大切なものをもらって育てられた私達は、この未来に対する夢を次の世代に継承することはできなかったのではないでしょうか……。
動く道路、子ども達だけで運転できる自動車、旅券も許可もいらないアジア連合国家間の旅行、ロボット……。未来社会の典型的なアイテムが本作品にはどんどん登場します。
ちなみに、アンドロボットとは、表面だけアンドロイド(擬人間)のロボットのこと。
人間とそっくり同じにできているアンドロイドはまだ作れず、中味はやっぱり機械で、結局ロボットの一種だと説明されています。
ロボットやアンドロイドやサイボーグなども、必須の未来アイテムだったなあ。
この本の巻末には、解説として、瀬川昌男さんが、火星について10ページにわたって説明されております。
ジュニア向けSFの本に、こういった科学読み物が付録としてついているのも、またいいものです。
想像の世界に遊んだ後は実際の科学について勉強する。
子供時代にこのような文理を超えた読書をして未来の社会を想像し、自らの将来の職業について思いをはせるのもまた貴重な経験です。
また、中学校の新学期が9月から始まっているのも、未来を感じさせる設定です。
「昭和のおわりごろから外国式がはいってきて、この一九九九年の今では、四月式と九月式が半々だ。」
と説明されております。実際、学校の新学期が4月から始まるのは世界的に見て少数派のようです。
それで一時、新学期を9月から始める、ということが本気で検討され、実現性を持っていた時期もありました。
また、「禅」が世界に広がっている、という設定も面白い。
「鎌倉の参禅会は、このごろでは春と秋に、世界じゅうから何万という人があつまる盛大なもので、日本仏教の「ゼン」は、月や火星にまでひろまっているほどである。」
この禅についての記述は、単に脇役として記述されたものではなく、鎌倉円覚寺管長の昌山禅師がロボ助を鍛え、ドジなロボ助を立派にして火星との戦争の解決に向かわせる、という、重要な役割を担っております。
ついでに、火星都市連合の人々はラテン語を基礎にした国際語(インテルリングア)を使っている、という設定が興味深いですね。
中立的な国際語という概念もまた、一時、未来の夢、として語られていたことがありました。
現実には、その理想は忘れられてしまい、アメリカやイギリスの母国語である英語が国際語ということになっております。
また本作品は、結構勢いに乗ってユーモアたっぷりな描写にあふれております。
ミキ夫やロボ助たちのドタバタ劇が楽しい。
ミキ夫を支えた名脇役ノダ・コータローも、登場時、ロボ助に
「おめえ、ヘソねえじゃねえか!」
と言って、ロボ助の腹にヘソを落書きします。
確かこんなCM、あったんじゃないかと思っていたら、後でロボ助が鎌倉円覚寺に向かう珍道中のシーンで、タクシー運転手がロボ助に向かって
「ケロヨンみてえなつらつきだして、人をおこしやがって、ロボットがタクシーに何の用があるんだ!」
とどなる描写がありました。
宇宙時代となった近い未来を舞台とし、子供たちが大活躍して宇宙戦争を解決、世界は平和に向かう……。20世紀後半の幸せな未来像です。かつて私たちは、このような夢に満ちた未来を想像して育っていたのです。今私たちは、子供たちにこのような夢を与え、実現できるように努力していくことが必要ではないでしょうか。
2002.2.15(金)
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