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■科学の芽をのばし、夢をそだてる科学小説 ■ 少年少女ベルヌ科学名作全集(学研)

 アフリカ横断飛行 

   

      

   アフリカ横断飛行
    亀山竜樹(訳) 清水耕蔵・清水勝(絵) 1967年6月20日発行
    学研 少年少女ベルヌ科学名作全集 第5巻

 (なお、旧版の表紙画像は ぶっくいん高知 古書部 様から拝借致しました。)
  

 ★(あらすじ)
 
 イギリスの高名な学者であり探検家であるファーガスン博士の今回の探検は、気球を使ってアフリカ大陸を横断すること。
 綿密周到な準備の末、助手のジョー、友人のケネディと共に出発!
 しかし予期しない出来事が次々に発生し……

 


 ★(感想:ジュール・ヴェルヌの実質上のデビュー作を亀山龍樹がユーモアたっぷりに超訳!!)

 気球を使ってアフリカ大陸を横断!
 気球の旅というと、ふわふわプカプカと優雅でファンタジーな旅行かと思いますが、
観光コースを飛ぶ遊覧飛行とは違います。
 欧州人にとって当時はアフリカ大陸は未知の世界で、命がけの探検です。
 当時の気球もそんなに性能がいいはずもなく、風任せ運任せで危険な乗り物だったのです。
 本作品でも、水不足で苦しんだりハゲタカに攻撃されたり現地人に攻撃されたり何度も危機に陥ります。
 最後には二重仕掛けだった気球も表側の気球は破られ、水素ガスも不足し、現地人に追いかけられ、
ありとあらゆる荷物を放り出して着の身着のままでようやく目的地に到着。気球は滝壺に消えてしまいます。
 ボロボロになりながら命がけの紙一重の成功だったわけです。


 この成功に終わった物語の最後で、ケネディはファーガスン博士に言います。
 
「ところでファーガスン、こんどは、どんな思いつきをひねりだすんだ?空のほうがすんだから、つぎは海底か、地の底か?」
 
 実際、ベルヌはその後に海底や地底や月世界の探検を描きますが、
本作の登場人物が再登場することはありませんでした。
 新しい作品に登場人物を再登場させずに、新たなキャラを一から創造しているのですね。
 キャラを使い回さずに舞台に最適なキャラを一から創造するというヴェルヌの職人技なのでした。

 しかし、ヴェルヌはフランス人なのですが、本作品の主要キャラはイギリス人です。
 実質デビュー作の本作品の主人公を故国のフランス人ではなくイギリス人にしたヴェルヌの意図はどうだったのでしょうか。

 ところで、私が気になったのはトイレについてです。
 やはり下に降りた時についでに済ましたのでしょうか。
 小さい方なら飛びながら下に放出したのでしょうか。
 私はよく腹を下す体質で、外出時にトイレが気になるタイプなのです。
 従ってトイレについては普段から気になって、外出や旅行もままなりません。
 こんな体質と性格では探検や戦争なんて絶対にできませんね。
 なお、『神秘の島』や『十五少年漂流記』でもトイレや風呂についての疑問を指摘させて頂きました。

SF KidなWeblog 神秘の島〈第2部〉 (偕成社文庫)
  http://sfkid.seesaa.net/article/453717729.html

OLDIES 三丁目のブログ ■[名作文学]十五少年漂流記
  http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20080831/p1
  
 アフリカの原住民がファーガスン博士一行の気球を目撃した時、原住民達は非常に驚き、攻撃して来ます。
 空に丸い物体が浮かんでいるのは、まあ我々がUFOを発見した時と同じような感覚なのでしょうね。
 ある時などは、尻尾を燃やしたハトで攻撃されます。
 これなども、我々がUFOをミサイルで攻撃しているようなものでしょうか。

 今回、学研・少年少女ベルヌ科学名作全集『アフリカ横断飛行』亀山竜樹訳版を読みながら、
集英社文庫の手塚伸一訳版を参照しました。

 面白いことに、亀山版にはオリジナル版にないシーンやセリフが加わっています。
 手塚版は、ロンドン王立地理学協会の総会のシーンから始まります。
 ところが亀山版では、そのシーンに先立つ時系列のファーガスン博士の村の出来事から始まります。
 研究室として使っているファーガスン博士の屋敷の倉で何かが二度にわたって爆発し
屋根が吹っ飛び、クラークじいさんや村長などとコントみたいなやり取りや、
ファーガスン家の先祖が倉を建てるに至った経緯がユーモアたっぷりに描かれています。
 確かに少年少女向けの本書では冒頭はこんな風にした方が入りやすいですね。

 それから、3人の主要キャラのうち、手塚版では他の2人からやや遅れて登場する助手のジョーが
亀山版ではケネディ訪問の際にユーモラスに登場する趣向となっています。
 ケネディが馬車で博士の屋敷に近付くと、ジョーにばったり出会います。
 
「しばらくおあいしませんでしたね、ケネディさん。」
「しばらくも、くそもあるものか。きみはいったい、なにをしとる。」
「主人の用で、いま、ジャガイモを買いに……。」
「そんなことをきいているんじゃない。」

 
 まるでマンザイのようなやり取りです。亀山さんの筆は快調です。
 先に挙げた物語最後の

「ところでファーガスン、こんどは、どんな思いつきをひねりだすんだ?空のほうがすんだから、つぎは海底か、地の底か?」

のセリフも、亀山さんの創作のようです。まるで洋画の吹き替えに出てきそうなセリフですね。
 一方、手塚版は、訳した年代が古い(1968年)からか、少々文体が硬くて説明事項が多くて読みづらい。
 そもそもヴェルヌの文体はそういう傾向があるのかもしれません。
 読み比べていくと、亀山版は、手塚版にあるこまごまとした説明文が省略されたりしていますが、エピソードは省略されることなく描かれているようです。
 昔は海外文学の子ども向け抄訳・翻案はよくありましたが、完訳至上主義という観点から批判されて今ではあまりされなくなったようです。
 しかし、1964年に初版が出た亀山さん版は今でも違和感なく読めます。実力者の抄訳は完訳にひけを取らないのではと主張したいですね。
 ということでこの亀山訳版、名訳なのでおすすめします!
  
 ところで、亀山訳版オリジナルのエピソードで屋根が吹っ飛んで村の人とやり取りするシーンですが、ウェルズ版の月世界探検の映画版に似たようなシーンがなかったですか?もしかしてそれが元ネタになっているのでしょうか。


   


 なお、本作で有名な言葉「エクセルシオール」について亀山版では以下のように説明されています。
 
「ご先祖どのは、にぎりこぶしに人さし指をつったてたしるしを、ファーガスン家の紋章として、あらたにきめ、その紋章の下に、『つねに前進せよ。』という銘文をいれた青銅製の板を、石の倉の入り口の上にはめこんだ。」


 ところで、今回私が参照した手塚訳版は、1993年に刊行されたジュール・ヴェルヌコレクション版です。

     


 当時の私はうつ状態で読書すらできない状況だったのですが、尊敬するヴェルヌの作品だから初版帯付きで購入していつか必ず読むのだ!という決意で購入したのです。

 その手塚版の訳者あとがきで
「26年ぶりの復刊」と書かれています。
 
1968年 ヴェルヌ全集版
1993年 ジュール・ヴェルヌコレクション版
2009年 同上改定新版
 
ということになるのですが、私がヴェルヌコレクション版の初版を購入して
25年後の2018年に
ようやく精神状態が改善して読むことができたというのも嬉しい偶然です。


(その他収録作品)

 
学研の少年少女ベルヌ科学名作全集は、ベルヌ作品の他に、関連する読み物が収録されています。
 それらの読み物も味わい深いので紹介します。



 新しいアフリカ 

   佐々木光(文)
 
 アフリカの歴史や地理に関する30ページに渡る解説記事。
 ヴェルヌの本作品では、白人を憎んで攻撃してくる現地人が登場していました。
 私が気になるのは、そんな人々はまだ存在しているのかということです。
 
「アフリカの原住民の生活は、土地により、部族によりちがいますが、最近はしだいに、すすんできました。しかし、コンゴのバサルパス族には、いまもなお、人を食べる習慣がのこっているそうです。」

 ((((;゜Д゜)))ガクガクブルブル

 
「かつての暗黒大陸アフリカは、もうなくなりました。新しく生まれかわったアフリカはどう進歩するでしょうか。新生アフリカの人びとを激励しようではありませんか。」

と結ばれています。




 猛獣境アフリカ 

 ジョンソン夫妻は探検家・写真家としてアフリカの自然を舞台に記録映画を撮影しました。
 本作は、夫人のオサ・ジョンソンによって書かれた撮影旅行の記録。
 
 最初は撮影もできず鉄砲も撃てず、現地人の使用人達からバカにされる。
 そこから慣れていくに従って撮影も射撃も上達し、野生の楽園・パラダイス湖を発見。
(このパラダイス湖について検索しましたが、見つけることができませんでした。一体どうしたのでしょうか)
 コダック社のイーストマン氏と交渉してスポンサー契約を取り付け、記録映画の撮影を続ける。
 
 当時ですらアフリカの自然や動物たちは失われつつあった、と書かれています。
 今ではもっとそうでしょう。
 かつてのアフリカの自然を記録したジョンソン夫妻の記録映画は貴重な歴史的資料でしょう。


 Movie Walker マーティン・ジョンソン夫妻(Mr. & Mrs. Martin Johnson)の映画作品
   https://movie.walkerplus.com/person/20703/

   
ウガンダ―私は冒険と結婚した (1958年)
                                      
(2018年3月31日)




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