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■夢と冒険の世界へ!■ SFベストセラーズ(鶴書房)

すばらしい超能力時代

   
   

    北川幸比古(作) 石井治(絵) 

   すばらしい超能力時代(旺文社文庫版)
    すばらしい超能力時代(鶴書房版)


あらすじ(ネタばれあります)

(第1話 博士超音速で走る H・G・ウェルズにささぐ)

 火の気もないのに突然、火事が発生する事件が東京に多発した。
 やがてそれは規模が大きくなり、ついに同時多発的な大火事が発生し、東京中が火の海となり、焼け尽くされてしまった。
 さらにその騒ぎは日本各地に飛び火する!

 実はこれは、有坂博士が開発した速度増加剤が引き起こしたものであった。
 何者かが有坂博士の研究所を襲い、速度増加剤を奪ったのである。
 この増加剤を使って
400倍に加速した犬を動く爆弾として利用したり、犯人グループが自ら飲んで石などを投げつけることによって放火していたのである。

 事情を知った黒部博士や伊達博士は、この事実を広く日本中に知らせ、対処しようとする。
 しかし日本政府は、
Z国のスパイがこの事態を起こしたものと思い込み、Z国の侵略から日本を守るためにY国の軍隊を日本に派遣することを要請。
 博士達はデマを流す悪人として指名手配されることになる。

 戦争の危機が迫る!博士達は無事にこの危機を乗り切れるか!?

(第2話 博士テレポートする 空間転移)

 陸上部で活躍する史朗君は、100m競争の決勝戦で、偶然テレポートらしきものをしてしまう。
 その日から史朗君は背の高い謎の男につきまとわれるようになった。

 そんな時、父親の黒部博士は、アメリカに新しくできた総合科学研究所に破格の待遇で招かれ、家族同伴でアメリカに移住する。
 研究所には、世界各国から人々が集められており、学校まであった。

 実はこの研究所は、ヤーノフスキーがテレポーテーションの能力を持った子ども達を戦士として養成するために作ったものだったのである。

 やがてその目的はマスコミに暴かれ、研究所は超能力者を恐れる人々に包囲された。
 研究所の生徒や親達はヤーノフスキーを中心とした新時代を築くのだ、と騒ぎ出す。

 史朗君や黒部博士達と、ヤーノフスキー一味の超能力バトルが開始される!


 

 ★主な登場人物

(第1話 博士超音速で走る H・G・ウェルズにささぐ) 

黒部史朗……中学1年生。観察力・洞察力に優れ、実行力もある。

 黒部正造……史朗の父。大学教授で、理学博士。

伊達一郎……医学博士。黒部博士の友人。

有坂博士……薬学博士。
      戦争を続けている某国から疲労回復剤の研究を依頼され、偶然、心身の回転を速くする速度増加剤を開発した。

(第2話 博士テレポートする 空間転移)

 ハリー・吉岡……アメリカのテレポーテーション研究所で、史朗と知り合う。
  アメリカ国籍だが、両親は日本人。

 ヤーノフスキー

  ……テレポーテーションの達人。
  世界中からテレポートの才能のある子ども達を集めて教育するために、アメリカに研究所を作った。


感想:21世紀は科学と超能力の時代!?
      当時のバラ色の未来観を表現した名タイトル!!

(ネタばれあります。注意!)

 SFベストセラーズの中の一冊。
 私が通っていた中学校では、SFベストセラーズの中で入っていたのはこの本だけでした。
 すでに小学生時代にSFベストセラーズを何冊か購入していた私は、まだ未読のこの本を何度か借りたものです。

 その後この本は、旺文社文庫に収録されました。

 私は本の目録を読んで内容を想像するのが大好きでした。
 目録に本の紹介文がついているとなお良し。
 だからSFベストセラーズの目録や紹介文も何度も読んだものです。

 SFベストセラーズの目録には幾つかバージョンがありますが、あるバージョンではこの本の紹介文は

>一日が二日分に使える、思うだけで目的地に行ける。そんな超能力をキミも持てたら……//

というものでした。
 この紹介文は、他の本の紹介文と少し雰囲気が違うような気がしました。
 他の本の紹介文は、ストーリーがおぼろげにも分かるのですが、この紹介文には、「キミ」が出てくる。
 タイトルも、小説のタイトルらしくない。

「すばらしい科学時代」「すばらしいロボット時代」「すばらしいコンピューター時代」
なんかと同じような文脈でとらえていました。

 だから私は、この巻だけは小説じゃなく、超能力の解説書じゃないかと思っていたものです。

 それにしても、いいタイトルですね~。
 来たるべき未来への希望に満ちていた
6070年代!
 当時の少年少女は、21世紀には超能力の謎さえ解明され、利用することもできる、と意気込んでいたものです(私だけか?)。
 来たるべき21世紀の夢と希望を疑わなかった当時の未来観を如実に表したタイトルでしょう。


  第1話は、副題にもあるように、ウェルズの短編作品に材をとったものでしょう。
 このウェルズの短編小説については、この本の解説でも福島正実さんが紹介されています。
 私も何度か読んだことあります。
 何せウェルズが大好きだった私は、ウェルズの翻訳文庫本は、旺文社・創元・角川・早川全てで読みましたから。

しかし、肝心の「新加速剤」の結末は忘れてしまいました。何度も読んだはずなのに……。
 ウインクの途中が間抜けなので、今後一生ウインクはしないぞ、と誓ったエピソードだけは覚えています。

ところで。

「博士超音速で走る」。

このサブタイトルもいいですね~。
 白衣を着た、白髪でひげを生やして太った博士がエイトマンのように走ってゆく光景を想像します。
「博士」と「走る」の取り合わせがいい。しかも超音速!

黒部正造。大学の教授で理学博士。時にはその知識を生かして超常現象的な難事件に取り組む!

いいですね~。
 少年時代には全然考えもしなかったのですが、一度社会に出てみると、やはり好きなことを仕事にして食っていけるのが一番幸せな人生だと思います。
 そういう面で、研究者というのは、好きなことを仕事にしている代表的な幸せな職業だといえるでしょう。

 

1話では、東京中が火の海となり、焼け出された史郎くんたちは、郊外の伊達博士の家に避難します。
 しかしそこにも火の手は迫ってきます。史郎くんは、伊達博士のいとこの光夫さん一家とともに奮闘し、家を守ります。

『怪奇植物トリフィドの侵略』を思い出すようなエピソードです。

私は縄張りを守る心理が強いのでしょうか。陣地を守るシチュエーションに燃えるのです。
 こういったシーンをわくわくしながら読んでいたのを思い出します。

黒部博士は、九州の出身大学で、速度増加剤と減少剤の開発をします。
 しかし九州にも火の手が迫ってきます。
 博士達は、プロトタイプの速度増加剤を使って自らを
400倍に加速し、増加剤の結晶化と、減少剤の開発に取り掛かります。
 そして隣りの教室に火が入ってきた頃、ようやく完成させるのです。

「ああ、腹がへった。火事はどこまでもえてきた。」

「もうとなりの教室に火が入りましたよ。」

「それなら、まだあと、だいぶ時間がある。おわかれに、ゆっくり食事でもしようじゃないか。」

 ……なんて会話、面白いですね。

 いよいよ完成した薬を持って空港に到着すると、指名手配中の黒部博士は捕まりそうになり、速度加速剤を飲んで走って東京の伊達博士の家まで向かうのです。
 このエピソード、非常に面白いと思ったものです。
 その後も長い間、折に触れて、加速剤を使って博士が九州から東京まで走っていったエピソードを思い出し、自分も加速剤があれば……と思ったものです。

この強行軍の途中、黒部博士は大阪で、自分と同じくらい早く動く男に追いかけられたと言います。

 「うむ。わしの姿をみて追いかけてきた。つかまってはたいへんだから苦労して逃げまわったがね。」

「どんなやつでした?」

「ふつうの日本人のようだったなあ。」 

……と黒部博士はあっさりと言ってますが、ここを読んだ時、私は非常に恐ろしく感じたものです。

 400倍に加速された自分一人の世界に出現する謎の人物。
 
400倍に加速された博士に見えるということは、すなわち、加速剤を奪って日本中を火の海にしている犯罪組織の一味に違いありません。

 もしここで博士が敵の手中に落ちていたら、日本はどうなっていたでしょうか。

 博士の体験談だけで、さらっと書かれたエピソードでしたが、私にはすごく印象に残ったものです。

 結局、犯人一味は博士達におびき寄せられ、あっさりと捕まってしまいます。
 敵のボスもあっけなく捕まり、事件の真相も発表されます。

>げんじゅうに調査をした結果、Z国にもY国にも関係のない、ただの放火狂であるという発表があった。//

  単なる放火狂だとしては、極秘で行なっていた有坂博士の研究を盗んだり、日本全土を狙うなど、あまりにもおおごとすぎます。
 しかし……。それにしては、あまりにもあっけなく捕まりすぎます。



>狂人ということにしたほうが、ごたごたがおきないのだとか、狂人を、どこのだれかが使ったのだとか、いう意見もあったが真相はわからない。
 こういうさわぎをおこして、とくをするのはだれなのか、考えてみれば、およその見当はつくだろう。//

 という意味深の記述があります。
 子ども時代に読んだ時はあまり意味が良く分からなかっただろうと思いますが、今になって読んでみると、なるほどと思います。
 さすが、『日本子ども遊撃隊』の作者です。

 

 第1話の興奮冷めやらぬ間に、第2話に突入!

 ここに登場する、テレポーテーションの達人・ヤーノフスキー、いいですね。
 故郷の星に受け入れられず、地球を思いのままにしようとやってきた宇宙人。

最後には黒部博士達の活躍で捕らえられ、月にテレポーテーションしようとして失敗し、爆発してしまいます。

この彼の最後がなぜか物悲しく、印象に残りました。
 その後の人生でも折に触れ、月にテレポーテーションしようとして失敗して爆発した彼のことを思い出したものです。

 

> 黒部君は、ヤーノフスキーが、ちょっぴりかわいそうになってきた。人類の新しい能力を発見し、空間転移という技術を教えていった、いわば先生なのだ。

「おとうさん。ヤーノフスキーの名まえは、忘れられてしまうかしら。」

「いや、そんなことはない。かならず歴史にのこるよ。よくない考えも持っていたが……今に記念切手でも出るんじゃないかね。」//

 

と、いわばヤーノフスキーへの追悼で物語は終わっています。
 このラストがあったからこそ、ヤーノフスキーが記憶に残ったのかもしれません。
 物語のラストをどう締めくくるか、それによって読者の読後感に大きな影響を与える、ということの実例かもしれません。

 ヤーノフスキーは世界各国からテレポーテーションの才能がある子どもを集めて、アメリカに学校を作り、訓練を開始します。
 ロシア人ぽい名前なのに、アメリカに研究所。
 それにしても、どうやってこの子どもはテレポーテーションの才能がある、と見分けたのだろうか。

 史郎くんの調査により、ヤーノフスキーの悪だくみが徐々に明らかになっていきます。
 お父さんの黒部博士は独自に研究を開始し、ついに科学的にテレポーテーションを行なう方法を実用化させます。

 科学の力で超能力まで解明!

 当時の科学や未来に対する自信を如実に表したエピソードです。

 第1話では速度増加剤の開発、第2話ではテレポーテーションの解明・実用化と、科学の発展を描いています。
 当時の子ども達は、
未来の社会ではひょっとしてこれらが実現されるかも……と想像し、来たるべき21世紀を楽しみにしていたものです。

 それにしても黒部博士、すごすぎます。九州から東京まで走ったり、テレポーテーションを実用化して世界会議に出席、世界平和を実現させたりと、ノーベル化学・生理学賞と平和賞をダブル受賞してもいいくらいです。
 この博士のバイタリティと知的好奇心と研究熱心は特筆すべきものがあります。

 その息子さんの史郎くんも大活躍。この二人がダブル主人公という形で物語は進んでいきます。

 このシリーズ、もっと続いてほしかった。

 なお、黒部史郎くん、第1話では「史郎」、第2話では「黒部君」と記述されています。
 第
1話と第2話の執筆の間に期間が空いていたのでしょうか。

                                   2002.11.23(土)


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