キミの友達も体験している――
SFベストセラーズ(鶴書房)
なぞの転校生(NHK少年ドラマシリーズ版)
眉村卓・原作
★(あらすじ
と感想)(ネタばらし注意!)★
毎週日曜の夜に、NHK総合テレビで、NHKアーカイブスという番組が放映されています。
NHKで過去に放映されたニュース映像、ドキュメンタリーやドラマ、アニメまで、色々な番組が再放送され、タイトルを見ているだけでも時代を感じさせて興味深いものです。
このHPに直接関係する番組として、過去にも、『タイム・トラベラー』や『未来少年コナン』が放映されたことがあります。
今回、2003年8月31日に、『なぞの転校生』が放映されました。総集編ということです。
1975年の作品(1975年11月17日〜12月3日)ということで、背景に時代を感じさせます。
原作では、大阪が舞台でしたが、ここでは東京が舞台となっています。
番組冒頭に、主人公の岩田広一が住んでいる団地というのが出てくるのですが、ジャングルの中に団地がニョキッと建っていて、『マグマ大使』の世界を思い出させます。この舞台こそSFだ。
そしてマンションのエレベーターというのが、何だか倉庫のエレベーターのようで、時代を感じさせます。
また、学校の生き返りに生徒が歩く道というのが、またえらい山道なのです。これでも東京か。
「武蔵野の良さを残している」
というナレーションがありましたが、放映当時にも東京にこんな山道が残っていたのでしょうか。
しかし、アスファルトで舗装された車の通る道でなく、こういった道を通って通学するというのも、いいものです。
番組放映当時でも、ましてや現代日本で、そういった道を通って通学する少年少女は、どれくらいいるのでしょうか。
原作に忠実にドラマ化されていました。
岩田広一役の高野浩幸、山沢典夫役の星野利晴ともに輪郭が細い二枚目で、ある種未来人的な顔立ちです。
広一、典夫、そして香川みどりのキャラクターもしっかり描かれていました。
リーダーの資格を十二分に備えている広一は言うまでもありません。このドラマでも大活躍します。
典夫の家の前に集まった野次馬を撃退し、典夫の父親を説得するなど、大人顔負けの活躍です。
典夫も「信頼できるのは君一人だけだ」と特別扱いします。
香川みどり。
浮気性ですね。
典夫と広一を天秤にかけるちゃっかり者です。
しかし、広一と違って表面的にしか見ていないので、典夫の内面の悩みに気付くことができません。
典夫がいざという時に信頼できるのは広一一人だけであり、みどりはこの事件において、何の活躍もしておりません。
山沢典夫。
独特のキャラクターをうまく演じていました。
万能の天才ながら、喋り方や行動が少しぎくしゃくしています。
元来、典夫達は、別の世界から来ていることを秘密にしているのだから、そのことを悟られるとまずいはずなのに、いかにも違う世界から来た、という行動をしてしまい、注意深い広一には悟られてしまいます。
違った世界で生活していく際になぜかトラブルを起こしてしまうという、国際化時代の異文化コミュニケーションというのを考えさせられます。
異文化の壁は高い。
典夫とクラスメイト達は、科学の暴走について議論します。
「核兵器がこれだけあるのに恐ろしくないのか」
という典夫の問いに、
「そうやって人間は進化してきた」
と皆は言います。
科学の発展と暴走。懐かしいテーマ設定です。
確かに一昔前、私が中高生であった頃までは、TV番組や読み物でこういったテーマはよく論じられていたように思います。
私の中高生時代も、こういったテーマがよくマンガ、TV、小説などで出てきました。
『なぞの転校生』執筆・放映当時は、もっと出てきていたのではないでしょうか。
しかし最近では、こういったテーマについて考えることは久しくなかったように思います。
世間一般では、科学が進んでいることは当たり前という暗黙の了解が広がっていて、改めて考えることを忘れていたように思います。
果たして現在はどうでしょうか。
現在の中高生が見たり読んだりするものにも、科学の発展と暴走についてのテーマが出てくるのでしょうか。
ドラマでは、核戦争の恐ろしさについて典夫が回想する迫力のシーンがあります。
当時も、米ソ冷戦時代で、核戦争の危機が言われていた時代でした。
ソ連崩壊によって、一時、核戦争の危機が少なくなった時代がありましたが、今また国際情勢の緊張によって、核戦争の恐怖が復活してきております。
最早現在では、核兵器は存在して当たり前の時代となり、議論の対象にすらならないのでしょうか。
20世紀のやり残した宿題。
21世紀の未来を迎えた今こそ考えるべき問題です。
番組では、第8話までの総集編で、典夫達が別の世界に旅立つまでが放映されました。
今回のNHKアーカイブスでは、最後に、第9話の最終回のあらすじが紹介されました。
原作通りの、味わい深い結末です。
ドラマ版では、原作とは逆に、典夫は父親の都合で大阪に引っ越していくことになるようです。
さてその後、広一・典夫・みどりの関係はどうなるのでしょうか。
辛い現実から逃げるのではなく、努力して変えていくことが大事だ、と、このD−15世界に定住することにした典夫達次元ジプシー。
この原作やドラマが作られたのは1970年代。
大人は、未来を変えていく物語を語り、少年少女は、未来を変えていく物語を読み、視聴しました。
あれから30年近く経ち、いつの間にか21世紀の未来に突入しております。
あの時の決意はどのような未来を創ったのでしょうか。
未来を創造するのに遅すぎることはありません。
今からでも未来を変えていくことはできます。
もう一度、未来を創っていくことについての味わい深いセリフを収録します。
「わたしたちのしなければならないことは時代を逆行させたり、逃げまわったりすることではなく、勇気をもって未来に立ちむかい、わたしたち自身のための未来をつくりあげること、最終戦争の恐怖におびえる前に、なんとかしてみんなで最終戦争が起こらないよう、力をあわせること……これだったんですね。
いや、そうでなければならないんです。」
「もちろんこの世界にもいろんな矛盾や気違いめいたことがたくさんありますよ。
それに、うっかりするとわたしたちの未来はまっくらのように思えることがあるのもほんとうのことです。
でもね、みんなそれでもがんばっている。なんとかして自分たちの手でよい未来をつくろうとして生きている……。
この岩田くんのようにね。
これですよ。これがあるかぎり、この世界はだいじょうぶです。
いや、そうじゃない、わたしたちもそうして生きなければならないんです。
負けないで、みんなで手をとりあってやりぬくこと。
いまの与えられた問題に全力でたちむかうファイトを失わないこと、これですよ。
……わたしたちはここに永住したいと思います。」
2003.09.06(土)
★( 追記:科学の発展と暴走 この問題に我々はどう取り組むのか)★
上の感想文を書いたのは2003年。それからもう8年以上たっています。
サイト移転が必要となったため、転載するために、読み返しました。
上の文章を書いた当時、科学の発展と暴走というテーマに焦点を当ててみました。
これを書いた当時ですら、科学の発展と暴走というテーマは、忘れられたようになっていました。
それではいけないのではないか、というつもりで書いたものです。
そして2011年、大惨事が発生しました。
核エネルギーが制御不能となり、暴走。
人間は果たして科学(核エネルギー)をコントロールできるのか、という問題が明らかになったのです。
人類にとって、科学の暴走について、もう一度真剣に議論する最後の機会ではないでしょうか。
しかし、現実には議論すら起こっていない残念な状況ではないでしょうか。
確かに、一部の心ある人たちは目覚め、脱核エネルギーについて真剣に論じています。
しかし、残念ながら大多数の人々は、核エネルギー依存が当たり前という前提ではないでしょうか。
『なぞの転校生』の小説やドラマで、中学生は、科学の発展と暴走について議論し、考えました。
21世紀になった現在、人々は、その当時の中学生ほどの問題意識を持ち合わせているのでしょうか?
全く、21世紀にもなるというのに……。
“原発事故”なんていうから問題がぼかされる。
現実は、“核事故”なんです。
もう一度、“核エネルギー事故”が起これば、日本消滅、日本沈没、日本滅亡は間違いありません。
そして、地震列島日本では、いつか必ず大地震は起こるのです。
本当に、科学の発展と暴走について、真剣に考えないと、とんでもないことになってしまうのではないでしょうか。
2012.04.05(木)
※( 原作版の感想はこちらです)
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「児童書ですが大人にも読んで欲しいです(今の混沌とした日本じゃむしろ大人の方こそ)。」
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