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■夢と冒険の世界への確かな翼■ SFベストセラーズ(鶴書房)

リュイテン太陽

       福島正実(作) 中山正美(絵) 

    リュイテン太陽



 ★(あらすじ:ネタバレ注意!)

 カトウ・シンペイは月基地の宇宙飛行学校で最後の実地訓練を受けていた。
 シンペイの父親は火星航路の定期宇宙船のパイロットで、兄のリョウヘイは宇宙中継ステーションの通信技師だった。
 ある日、兄から、父と一緒に会いに行くという連絡が入った。
 二年ぶりに親子三人会うことを楽しみにするシンペイ。
 しかし突然、クジラ座のリュィテン726番星が爆発した。
 超新星スーパー・ノバとなったのだ。
 太陽からの距離、およそ8光年。太陽から4番目に近い恒星で、少なくとも3つの惑星を持っていたはずである。
 この超新星の爆発は、太陽系に強力な宇宙線をもたらして地球と月との間の通信は途絶えさせた。
 宇宙線の増大は宇宙中継ステーションの原子炉をショートさせて爆発させ、航行中の宇宙船を遭難させた。
 シンペイは、兄と父を一度に失ったのである。
  
 リュイテン太陽が爆発して3日後、行方不明になっていた木星号からのSOS信号が受信された。
 月基地で最も強力な原子力エンジンを持った練習宇宙船ルーナシアン号が救助に向かう!

 
 ★(主な登場人物)

 カトウ・シンペイ……月基地にある宇宙飛行学校の練習生。
 
ホウリン……月生まれの美少女。通信局勤務。練習生のあこがれの的。
 
ガガーリン大佐……宇宙飛行学校の訓練隊長
 
アーサー……練習生のリーダー。イギリス人。
 
ハインツ……練習生。ドイツ人。
 
ルベリエ……練習生。フランス人。
 
ドナルド……練習生。アメリカ人。


 ★(感想:空想科学ジュヴナイル論争 同志諸君、結末について語ろうではないか!)(ネタバレ注意!!)

 舞台となるのは、2113年6月17日という日付があります。
(シンペイが兄からの通信を受け取った日、もしくは、兄や父と会う日)
 その頃には月面基地に宇宙飛行学校があるんですね。
 福島正実さんには、『月世界2008年』というSF短編集があります。
 その本の前半は月基地を舞台とした連作短編となっています。
 月世界に地球からの観光客が訪れていたり、月生まれの人がいたり、月面でケンカしたりと、
本書につながる描写もあり、舞台設定は一貫しているようです。
 しかし、時代設定が100年違うのはなぜなんでしょうか。

SF KidなWeblog
 月世界2008年 福島正実が予見した21世紀初頭の日本
  http://sfkid.seesaa.net/article/414769703.html

 主人公のカトウ・シンペイの性格が興味深いですね。
 彼は気の毒なことに、超新星の爆発の影響で、父と兄を一度に失います。
 そのショックからか、木星号の救助に練習生が向かうという案について、練習生の中で一人だけ反対し、
波乱を起こします。
 ジュヴナイルSFではこのような場合、率先して救助に向かうことを主張するような主人公が多い
という先入観を裏切る描写です。
 練習生同士の議論は決裂し、ついには救助を主張する急先鋒・ハインツと月面で決闘を始める始末。
 日本人主人公の習いとして、シンペイはジュウドウの使い手です。
 これが手塚治虫のマンガなら、ジュウドウ技で日本人主人公が勝つところです。
 ところが、ハインツもバリツの使い手なんでしょうか、なかなかの強敵で、勝負は一進一退の伯仲!
……とまあこのように、ジュヴナイルSFでありながら、主人公が宇宙船救助に反対して決闘まで始めるという、変化球的な展開です。
(福島正実さんの本名は加藤正実だそうで、カトウ姓の主人公は作者の分身なんでしょうか?)

  


 ついでに、登場人物の出身国籍の設定も変化球的です。
 主人公が日本出身なのはいいとして、練習生たちのリーダーのアーサーは、イギリス人です。
 こういう場合、アメリカ人がリーダーになっていることが多い、というイメージを持っているのは、私だけなんでしょうか。
 しかも練習生を教える教官はロシア人です。
 また、話し合いが決裂してシンペイと決闘する練習生ハインツはドイツ人。
 ドイツ人は冷静沈着キャラなはずだ、こんな時に逆上する血気盛んなキャラはアメリカ人だ、
という先入観があるのは何ででしょうか。
 ちなみに、アメリカ人の練習生・ドナルドは時々冗談を言うくらいで、あまり描写がなく、脇役に徹しています。
  
 それにしても、遭難した宇宙船の救助に、まだ正式の隊員ではない宇宙飛行学校の練習生たちが向かうというのは、
少々乱暴な設定です。
(まあそこは物語の展開上の都合だから、言わないところか。)
 救助に向かうのは、ガガーリン大佐以下、ヒロインのホウリンと練習生7名。
 名前の出てる練習生はシンペイをはじめ5名だから、名無しの練習生が2名いるはずです。
 一度は救援活動に反対したシンペイですが、救助が決まって活動が始まると、
ジュヴナイルSFの主人公らしく模範的で積極的な言動をとります。
 流星群のためにアンテナが壊れた際には、ルベリエと共に宇宙船外に出て命がけで修理します。
 『宇宙船ペペペペラン』にならなくて良かった。
 
OLDIES 三丁目のブログ
■[日々の哲学]宇宙船ペペペペランとシャイマンロン
  http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20141017/p1


  


時間との戦いでようやく木星号を発見し、船内に救出に向かう!
 その船内で明らかになったのは、驚くべき事実だった!!
   
……その後、物語はあと一つの山を迎えます。
 そして最後、宇宙船の原子炉の爆発を待つシンペイの前に、宇宙船の中から宇宙人が出現します。
 彼らの正体は、リュイテン太陽系の惑星に住んでいたリュイテン太陽系人であった!
 彼らは太陽の爆発を予知し、移住先を求めてやって来た宇宙の漂泊者であった。
 当初は地球に移住する計画であったが、死を恐れず自己を犠牲にして仲間を助けるシンペイの行為を見て、
地球移住をあきらめ、別の太陽系を探すことに決めたという。
  
「地球人ヲ、ワレワレハ尊敬スル」
  

  


 結構ハードボイルドに展開してきたのに、最後の最後での宇宙人の登場、何だか唐突に感じます。
 宇宙人が出てきたせいでリアリティを失ってマンガ的な結末になった、と唖然としました。
 この感想は、私が最近は宇宙人が登場する小説やマンガや映画を見ていなかったという
個人的事情も関係するのかもしれません。
 時代から取り残された生活をしている私としては最近の小説やマンガや映画の事情には疎いのですが、
宇宙人は出てきますか。
 そういえば、私が子どもの頃の小説やマンガや映画には、ごく当たり前のように宇宙人が出てきました。
 特に、SFには宇宙人が出てきて当たり前という状態で、本書『リュイテン太陽』には本作品をはじめ
3つの短編が収録されていますが、全てに宇宙人が登場します。
 だから子ども時代に本書を読んだ時、宇宙人が出てくる結末を自然に受け入れていたと思います。
 よく考えれば、太陽が爆発したリュイテン太陽系にも我々と同じような人類がいたはずである、
ということに思いをはせるためには、リュイテン太陽系人との交流を描くことは、
子どもたちの情操に良いことだったのかもしれません。
 
 しかし、宇宙船の救助先で偶然リュイテン太陽系人の宇宙船と遭遇し、救助活動を目撃されるなんて、
空間的にも時間的にもすごい偶然です。
(まあそこは小説だから)
 それに、何でリュイテン太陽系人は遭難して爆発寸前の地球の宇宙船の中から出てきたのでしょうか。
 彼らにはテレポーテーションの能力があったのか!?

  
 (以下、同時収録作品二編を簡単に紹介します。)


暗黒のかなたへ

 (あらすじ:ネタバレ注意!)


 吉井藤太の兄・隆二はパイロットであったが、定期貨物便を運転中、紀伊半島上空付近で消息を絶った。
 二十日後、藤太は兄からの電話を受け取る。
 兄の指示で青山墓地に向かった藤太は、UNS秘密捜査機関とオメガ太陽系宇宙人との隕石争奪戦に巻き込まれる!
  
  

 
(感想:ネタバレ注意!)

 UNS秘密捜査機関という大がかりな組織が出てきます。
 東西冷戦時代を背景とした政治的な機関ですが、超能力を武器としているのがすごい。
 小松左京の『エスパイ』をイメージすればいいのでしょうか。
 オメガ宇宙人も隕石を狙って色々とコンタクトしてきます。
 オメガ宇宙人は何と、時間を止めることができます。
 正式には、特定の人物を速度の速い時間系列の世界に入れる技術です。
 そんなことができるのなら、最初からこの能力を使っていれば色々と面倒なことなく済んでいたのに。
 しかしそれを言えば、お話にならなくなります。それは言わない約束か。

地底人オリガ

 (あらすじ:ネタバレ注意!)

 主人公は、ワシントンに留学している若い人類学者・西口雄作。
 飛行機事故によって西口は、オリガと名乗る美少女と二人だけ、ユカタン半島の密林の中で生き残る。
 オリガに連れられてマヤ帝国の古代遺跡に到達した西口は、マヤ帝国やククールカンの謎を知り、オリガの正体を知ることとなる!
 オリガの正体は、ウオルフ369番星人。
 700年前に地球に調査に来た際、原子力エンジンが爆発したために、ユカタンの地底で人口冬眠していたのだった。
 ウオルフ369番星人の正体を知った西口は、オリガと共に処刑されることになるが……。

 
 
 
(感想:ネタバレ注意!)

 主人公はワシントンに留学している若い人類学者ということで、子どもではありません。
 しかし、嵐に巻き込まれてこんなに簡単に飛行機が墜落するもんでしょうか。
 しかも主人公とヒロインだけ生き残るとは、偶然にしても出来過ぎです。
 それに、ウオルフ369番星からは救助は来ないのでしょうか。
 同時収録作品『暗黒のかなたへ』でも、オメガ宇宙人は事故で死んだ調査員の遺品を回収に来ています。
 最初から最後まで都合が良すぎる設定で、主人公が見た夢、という夢オチだと思えばいいかのう。
 子ども時代は何も考えず感動して読んでいたのでしょうが、こんなあらさがしばかりする大人になってしまいました。
                                                                          (2016年9月23日)


  [wikipedia:鶴書房]

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編集後記 福島正実『リュイテン太陽』の思い出 
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