なぞにみちた宇宙時代の、夢あふれる冒険の物語――
創作子どもSF全集(国土社)
消えた五人の小学生
(大石 真・著/山藤 章二・絵)
(1969年6月15日発行)
★消えた五人の小学生 (創作子どもSF全集 6) ★消えた五人の小学生 (てのり文庫)
★(あらすじ:ネタばらしあります)★
ジェット自転車。――198X年、その自転車が子どもたちのあいだで大流行した。
自転車のうしろに、小型のジェットエンジンみたいな飾りが取り付けられていた。
他の自転車と違って、すてきにかっこうがよく、車体が軽くて、スピードが出る。
ある日、主人公の原 光太の友達・いずみちゃんを始め、ジェット自転車でサイクリングに出かけた五人のクラスメイトが行方不明になった。
警察や親たちによる捜索も空しく、五人は見つからない。
光太が組織した少年少女探偵団は、五人が消えたひばり峠のあたりで、UFOが出現したらしいことを知る。
また、いずみちゃんの父親・荒木博士は、韓国を始め世界各国でもジェット自転車でサイクリングに出かけた子ども達が行方不明となっていることを知る。
警察との協力により、決定的な証拠をつかんだ光太や博士らは、ジェット自転車の製造所・コスモス自転車製作所に乗り込み、社長の山岡菊之助と対決する――。
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★(感想 :これは希望か、混迷か? 問題を問いかける深いSF)★
この本はてのり文庫にも収録されました。(1989年初版/国土社)。
1969年の初版において、この作品は20年後の198X年を舞台としておりました。
20年後、198X年代の最後の年、てのり文庫版として甦ったわけです。
てのり文庫版では、舞台は200X年の話となっています。
執筆当時から40年近く経過した今でも、このお話は古さを感じさせません。
私たちが思っていたほど21世紀は未来じゃなかったんですね。
このお話に描かれる子どもたちやそれを取り巻く人々や街の環境もあまり変化はありません。
ただ、ゲームやパソコン、携帯電話についてだけは、現実がSFを追い越したといえるでしょう。
内容については、未来の明るさだけを強調したおめでた一色のストーリーとはいえないようです。
「しかし、なにぶんジェット自転車は、ねだんがたかい。
かんたんに買いかえるわけにはいかない。
かってもらえない子どもたちもいる。おおぜいいる。
そんなわけで、光太のクラスでも、ジェット自転車をもっているれんちゅうと、もっていないれんちゅうと、ふたつのグループにわかれてしまった」
と、高価なジェット自転車のために子どもたちが二分されるという状況。
格差社会ですね。
確かに文明が発達する以前は格差は歴然と存在していました。
文明の進化、経済や社会の発達によって、格差は縮小し、総中流社会と呼ばれるような時代もありました。
しかし21世紀を迎えた現在日本では、再び格差は拡大の傾向にあります。
規制緩和、グローバリズム、TPPなどがもたらす格差社会。
それが極まると、H・G・ウェルズが『タイム・マシン』で描いたような、経済状況による人類の分化に至るという。
果たしてこれでも人類は進化していると言えるのでしょうか?
ジェット自転車を持っているいずみちゃんにサイクリングに誘われた光太。
しかし一緒に行くメンバーが五人ともジェット自転車に乗っていることを知り、ジェット自転車の悪口を言っていずみちゃんとけんかになります。
しかし思い直して、待ち合わせの場所の東公園に出かけ、いずみちゃんと仲直りします。
この辺の心理、うまく描けていますね。
せっかくいずみちゃんと仲直りしたのに、後から来た山本くんに旧式の自転車を馬鹿にされて、光太はいずみちゃんの愛犬クロを連れて帰ってしまいます。
いずみちゃんは最後に出発して光太に小さく手を振ります。この描写、いいですね。
五人が行方不明になった次の日、光太はクラスメイトに五人の捜索を提案します。
しかしみんなの反応は意外とにぶく、やっと集まったメンバーは五人。
集合してみると、全員旧式の自転車に乗っています。
「やっぱり、ジェット自転車なんかにのっているやつに、ろくなのはいねえ」
と思って光太は出発します。
いずみちゃんを探すのですね。他の4人はどうでもいいですね。
分かりますね。それで十分ですね。
さて、いずみちゃんの父親・荒木博士も独自に調査を始めます。
浮上したのは、ジェット自転車を製造している会社の山岡社長。
社長が夜、UFOから部品を受け取り、ジェット自転車に取り付けていたことを突き止め、詰問します。
山岡社長は話し出します。
山岡社長は昔、天文学者でした。
日本アルプスで遭難死する直前、UFOに助けられ、彼らの手伝いをすることになります。
その星の人たちは、やがて滅びていく人たちだったのです。
その星の世界では、十年ほど前、大戦争があり、恐ろしい兵器を使ったからです。
彼らは、そのまま滅びていくのに耐えられず、彼らの後をついで、その星の文明を守ってくれる人類を探し、地球人をそれに選んだのでした。
地球の子どもたちだけを星に連れて行き、教育して、その星の後継者とするというのです。
山岡社長は言います。
「火事のほのおにまきこまれた子どもをすくいだせば、これは表彰ものでしょう。それと同じですよ。
いま、地球は、おそろしい戦争にまきこまれようとしています。
このままでいけば、いやおうなく、人類はほろびてしまうでしょう。
そこから、すこしでも子どもたちをすくいだして、べつの世界、戦争などのない平和な星の国におくりこむことが、どうして悪いことなのでしょう」
それでも娘と一緒に暮らしたいという荒木博士に対して、山岡社長はだめを押します。
「やがて、この地球に大戦争がおこり、お子さんたちが不幸になってもですか?」
「でも、もういちど、かんがえてみてください。
この地球に子どもたちが住むのと、その星にすむのと、どちらが、子どもにとってしあわせであるかを……」
数日後、山岡社長は失踪し、消えた子どもたちから手紙が届きます。
「家の者や、友達とわかれて、星の国に住むのは、とてもさびしい。
でも、わたしたちには、これまでとちがって、大きな希望があります。
あたらしい星の世界を、これからじぶんたちの力できずいてゆくという希望です。
それをかんがえると、わたしたちは、なにをするのもたのしくてたまりません。……」
光太は、それいらい、ときどき夜空を見上げます。
>この無数の星のどれかにいずみたちが住んでおり、この地球を眺めているのだと思うと、光太の胸には、そのたびに、なきたいような、ふしぎな感動がこみ上げてくるのである。/
山岡社長が言うように、作者も、あとがきで問いかけます。
「こうして、べつな星にすむ、いずみたち五人の子どもたちと、これからも地球にのこって暮らさなくてはならない光太たちと、はたして、どちらが子ども自身にとってしあわせなのでしょうか。」
いずみたち五人はこれらを比べ、星に残ることを選択しました。
彼らの手紙は希望にあふれています。
考えてみると、今の子どもたちには、このような希望があるのでしょうか。
いずみたちのように、自分たちで未来を作っていくという自覚や希望があるのでしょうか。
そもそも、周りの大人たちも生活に追われ、子どもたちに未来への夢や希望を語り、与えることを忘れているのではないでしょうか。
そのような大人たちこそ、忘れていた未来への希望を思い出すために、子ども時代に読んだジュニアSFを読み返すべきではないでしょうか。
21世紀を前にして未来に希望を持っていた時代に、このような悲観的な未来像が描かれていたこと、そして実際に21世紀になってみて、この物語の問題提起の的確さに驚かされます。
この物語が投げかけた問題提起は、現在もますますその重要性を増しているといえるでしょう。
さて、このSFの斬新なところは、残る者(光太)の視点から描かれていることです。
宇宙に行って冒険する五人の視点ではありません。
ジェット自転車を買えない光太には、星に行くか地球に残るかを選択する権利すらありません。
ただ、地球に残って消えた五人の捜索をし、山岡社長を突き止めるだけです。
星に行って新しい世界をつくるのは、ジェット自転車を買えない光太を馬鹿にした山本くんたちなのです。
やさしいいずみちゃんもいることは希望ですが、何やら割り切れないものを感じます。
これは一体、どういうことなのでしょうか。
しかしよく考えてみると、作者の深い問いかけがあるように思えます。
僕たちは簡単に地球から他の平和な星に逃げ出すことはできない。
僕たちは地球に残って地球を平和な住みよい世界にするしかないんだ。
このように考えさせるために、作者の大石真さんは、あえて物語を、地球に残る心のやさしい、冒険心旺盛な光太の視点から物語を描いたのではないでしょうか。
(2001年3月)
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はっぱのきもち 消えた五人の小学生
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