21世紀を考えよう!

金の星社 少年少女21世紀のSF(7)

  セブンの太陽 

(加納一朗・作/表紙・岩淵慶造/挿画・上矢津)

(1969年8月初版 1982年10月)

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     セブンの太陽 (少年少女21世紀のSF 7)  

 

(あらすじ  ネタばらし注意!)

 西暦2007年2月。
 アメリカのウイルソン天文台の大電波望遠鏡は、射手座の方角から発信される、不思議な電波をキャッチした。
 地球政府のもとにある惑星省の宇宙船が調査に向かうが、消息を絶つ。
 自動操縦で戻ってきた宇宙船の中からは、乗員が消えていた!
 惑星省は、本格的な調査団の派遣を決定。
 高岡司令の息子・明も、太陽系パトロール隊見習いとして参加。ベータBかえで号に乗船する。
   
 調査団が目的地に到着すると、ガス状電子生命ギズモスが待ち構えていた!
 ギズモスとの激しい戦闘の結果、惑星を改造した核融合爆弾で勝利を得たのもつかの間、
空間のゆがみに巻き込まれ、28もの惑星を持つ新たな太陽系に放り込まれてしまった! 
 この未知の太陽系においても、彼らに試練が待ち構えているのであった……。
 

 

 

 

 

(感想: 冒険また冒険!少年少女向け本格SF!)

    (※ネタばらし注意!!)
 

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      セブンの太陽 (少年少女21世紀のSF 7)  

 

 少年少女向けということですが、なかなか本格的なSFです。
 大人が読んでも読み応えあるのではないでしょうか。
 描かれる素材もアイディアに富んでいますね。

 第一の素材は、宇宙空間に漂う電子生命ギズモス。
 普段はガス体で漂っているが、集まって固体になることができ、知能がある。
 それがエネルギーを求めて地球に近付いて来る!
 調査に向かった人間の脳を支配し、知識を吸収する!
 こんな化け物とどう戦い、勝利するのか!?
 そこら辺も見所です。
 調査隊の宇宙船クルーが冥王星から離れた小惑星を改造して核融合爆弾を簡単に製造してしまうのもすごいことですが。
  
 この電子生命体ギズモスというアイディアも面白いですね。
 「帰ってきたウルトラマン」に、バキューモンという怪獣が出てきたのですが、そのようなものでしょうか?
 (バキューモンに関連してウルトラQのバルンガも言及されることが多いようです。
 残念ながら私はバルンガのエピソードは見たことありません。)

  バキューモン
 

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M1号

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 実は物語の最後、超密度生物バイトンというのも登場します。
 黒色矮星から生まれた暗黒の生物。
 むしろ、こちらの方がバキューモンに近いかな?
 ともかく、これでもかというほど、アイディアてんこ盛りの物語であります。

    [wikipedia:白色矮星]   [wikipedia:黒色矮星]

    ↑私は宇宙・天体用語について余り知らないのですが、なかなか面白いですね。



 私は子どもの頃、本の目録を読むのが好きでした。
 創元推理文庫の目録で、「ガス状生命体ギズモ」というのがあって、どんな話だろうと思っていました。
 検索すると、著名な作品のようで、色々なサイトで紹介されています。
 何か強そうな割に呆気なくやっつけられる愛すべき生命体のようです。
 しかし本作品に登場するギズモスは、宇宙を漂っているし、人間の脳を支配して知識も吸収するし、
中性子爆弾もエネルギーにしてしまうし、圧倒的に強い存在です。
 もしかしたらバキューモンより強くて、ウルトラマンも苦戦するかもしれません。
 

4488621023ガス状生物ギズモ (創元SF文庫)
マレー・ラインスター 永井 淳
東京創元社 1969-06

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 本作品がすごいのは、こんなバカ強い電子生命体ギズモスとの戦いが、物語の前振りに過ぎないということです。
 ギズモスの電子流と太陽爆弾の爆発で空間がねじ曲げられる!
 そのあおりで、宇宙船がゆがんだ空間に放り込まれ、別の太陽系に放り出されます。
 この、歪んだ空間を抜けて別の宇宙、というアイディアも面白いですね。
 これ、四次元空間とか、ワープとかいうものでしょうか?
 ちなみに「宇宙戦艦ヤマト」のTV第一作の放送は、1974年。

 

   [wikipedia:ワープ]

   キミは“ワープ成功論”を知っているか!?   http://sfclub.seesaa.net/article/114126624.html

 

「本船はくじら座付近の、ガンマ星のそばにいる。
 地球までの距離、19.2光年。
 前方のガンマ星にともなう二十八個の惑星のうち、7、9、14、16、18ばんめの4個に大気あり。
 7、18は、それぞれ地球大気によく似た成分を持っている……。」

  
と、宇宙船のコンピュータは解析する。
 彼らの冒険はその後、第18惑星、第七惑星、第九惑星でも行われます。
 驚くべき生命体の出現!犠牲者も。
 そして驚くべき出会いが待っていた!!


   
 隊長の石狩さんはまず、第十八番惑星の探険を決定。
 この星も奇妙な星でしたが、その次に向かった第七番惑星での出来事がこの物語のメインとなります。
 地底に住む、地球人とよく似た人々の正体は何か!?
 そして、オレンジ色の宇宙ビールスを降らすルダールの海の悪魔とは!?
 ルダールの悪魔を滅ぼすために第九番惑星に向かうかえで号の運命は!?


    
 長い冒険の末、彼らが地球に生還した際、
23名の隊員のうち6名が死亡。17名となっていた。
 そして2016年、地球から惑星セブンに向けて、6せきの宇宙船が飛び立つ。
 地球の太陽もセブンの太陽も同じように思われた。

「地球人には、すべての太陽の周囲をめぐる惑星が、ふるさとになるだろうからーー。」



 冒険の連続で、密度の高い物語であります。
 見所が多く、映像化しても面白いと思います。
 未知の宇宙への冒険、開拓精神、危機に直面してもあきらめないこと。
 宇宙開発と科学の発展・未来への希望に満ちていた当時の活気が伺われます。

 少年少女21世紀のSFシリーズの中でも、本作品はマイナーな方で、検索してみてもほとんど出てきません。
 しかし、加納一朗さん描くスケール大きなSF作品として、再評価されてしかるべき作品だと思います。

 しかしこの作品は、高度成長時代の空気を反映していると思います。
 あくまで前向きで楽観的で健康的。

 当時は社会の上部層も庶民層も宇宙開発や科学の発展に目を向けていたんですね。
 子ども達も、将来は宇宙開拓の仕事をしようとか、色々と健全な夢を持つことができたのです。

 ところが、21世紀になった現在はどうでしょうか。
 あの当時より遥かに後ろ向きとなっているのではないでしょうか?

 世界は金儲け第一のグローバル企業に支配され、アメリカ政府もその手先となっています。
 グローバル企業の目的は、宇宙開発とか科学の発展というより、一般庶民を奴隷化し、搾取することです。
 そして搾取の対象とされる一般庶民の関心といえば、社会を良くするということではなく、目先の刹那的な楽しみなのであります。

 このような時代、子ども達は、かつての子ども達のように、無条件に未来に希望を持つことができるのでしょうか。

 将来は非常勤か派遣か?正社員になれるだろうか、結婚はできるのだろうか……?
 そして社会の向かう先は、必然的に、極少数の支配層が大多数の奴隷を支配する超格差社会・奴隷制社会。
 どんな小説を描いても、この格差拡大社会の影響が顔を出すのではないでしょうか。
 そのような時代では、「セブンの太陽」のような、あくまで健康的・楽観的・前向きな作品は描きにくいのではないでしょうか。


  
 現在2013年。惑星セブンに宇宙船が飛び立つ3年前です。
 ところが現実の日本は、特定秘密保護法、TPP、憲法改悪と、
大政翼賛体制のもとで、軍国主義ファシズムに向かって猛進しています。
 とどのつまり、日本においては、平和憲法も戦後民主主義も定着せず、脆くも崩れ去ろうとしているのです。
 少年少女向けSF(ジュブナイルSF)とは、戦後民主主義が盛んだった一瞬の期間に花開いた徒花のような存在だったのではないでしょうか。


 ところで、かえで号が発見した地球型惑星セブンに生存していた住人(地球人型宇宙人)の歴史について、本書では、あまり詳しく説明されていません。
 よく読むと、矛盾があるようなないような。
 その点について、少し突っ込んで考えてみたいと思います。
 以降、ネタばらしの記述となりますので、ネタバレブログの方で書かせて頂きます。
 

 以上、ご精読ありがとうございます。

 ここまで読んで、本書を読んでみたいと思われた皆様、ぜひとも図書館などで探して読んでみて下さい。

 そして内容について語り合いましょう。

 ネタバレ専門ブログにてお待ちしております。

20世紀少年少女SFクラブ・ネタバレ談話室
加納一朗『セブンの太陽』ネタバレ読書会
  http://sfclub.sblo.jp/article/81761358.html

2013.11.28(木)

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      セブンの太陽 (少年少女21世紀のSF 7)  



 

 編集後記

    ご意見ご感想お寄せ下さい。

 

 

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タイム・トラベラ− 筒井康隆「時をかける少女」より

 

    [wikipedia:ジュブナイル]

    [wikipedia:加納一朗]

     「推理クイズ」の世界を漂う  加納一朗推理クイズ作品リスト  http://homepage3.nifty.com/mystery-quiz/kanou.htm

      表紙画像はこちらから拝借しました。  http://mozubooks.com/?pid=18389358

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