21世紀を考えよう!
金の星社 少年少女21世紀のSF(1)
チタンの幽霊人
(瀬川昌男・作/表紙・依光隆/挿画・赤星亮衛)
(1968年12月初版 1979年3月改版)
★(登場人物)★
三田村タツオ……ロケット工学者三田村博士の息子。不可解な言葉を残したままエアカーで事故死する。
杉マコト……三田村タツオの親友。タツオの事故死の謎を疑い、調べ始めるが、両親は事故死。自身も行方不明になる。
下田理一郎……土星の第六衛星チタンの開拓隊の隊長。
下田ヒロ……下田隊長の息子。11歳。
下田リエ……ヒロの姉。14歳。
谷崎栄策……原子核物理学者。下田隊長の実父。
サイボーグ1号……サイボーグ達のボス
子どものサイボーグ……捕らえられたヒロ達の見張り役。サイボーグになる前は日本人の子どもだったという。
★(あらすじ
ネタばらし注意!)★
ロケット工学者・三田村博士一家がエアカー事故で事故死した。
この事故について新聞社の知人と調べていたマコトの父親も事故死。マコトの母親も交通事故死し、マコトは行方不明となる。
事件は闇に葬られたまま、長い年月が過ぎた。
土星の第六衛星チタンを開拓するために開拓隊の人々が下田隊長に率いられてやってきた。
開拓隊はチタンの開拓に励むが、時々幽霊らしきものが現れる。
そして下田隊長の息子・ヒロ達9人の子どもが行方不明となる。
さらったのは先にチタンに住んでいたサイボーグ達である。
彼らは子ども達を人質に、宇宙船の引き渡しを要求するのであった!
★(感想:完全軍縮 ・軍備撤廃成立! 用済みとなった兵器開発用サイボーグ達の悲しい復讐の物語)★
(※ネタばらし注意!!)
1990年、完全軍縮−軍備撤廃が実現し、世界が平和になると、宇宙開発は急速に進んだ。
月と火星の開拓が行われ、次に開拓すべき第三の新天地は、土星の第六衛星・チタン。
この物語は、そんな平和な宇宙開拓時代のチタン開拓にまつわる悲しい物語です。
土星の衛星チタンは、近年はタイタンと呼ばれることが多いそうです。
本書の解説では、著者の瀬川さんが、土星の衛星について説明されています。
第10衛星テミスについては
「発見されてから後、一度も観測されていない」
「現在、見あたらない」
という記述があります。
テミスはその後、存在しないことが判明したそうです。
こういった記述を見ると、現在進行形で科学が進んでいる臨調感が味わえますね。
なお、同じ金の星社 少年少女21世紀のSFシリーズで、テミスを舞台とした『テミスの無人都市』が収録されています。
[wikipedia:タイタン (衛星)] [wikipedia:テミス (衛星)]
本書が描く世界では、宇宙時代の宇宙標準語として、エスペラントが採用されているようです。
その言葉は、もちろん、宇宙標準語になっているエスペラント(国際語)だ。
開拓隊員たちは、同じ国語を使う者どうしはべつとして日常会話にも、エスペラントを使うことが多かった。
ただ、エスペラントは、なんといっても人工的な言葉なので、微妙な感情をつたえるには無理がある。
そういうときには、英語やロシア語のたすけも必要だった。
しかし、やがてはエスペラントも成長するだろう。
いろいろな天体の開拓者たちの間でエスペラントを土台にした「月語」や「火星語」や「チタン語」、そしてそれを統一した「太陽系語」が生まれるのも、そんなに遠いことではないにちがいない。
という記述があります。
また、巻末の【用語注解】では、エスペラントについて
ポーランドのザメンホフによって作られた国際語。英語などより文法がやさしい。将来はこれが宇宙標準語になることを作者は希望している。
と記述されています。
瀬川昌男さんは、エスペラントを支持していたのでしょうか。
確かに、宇宙時代の未来の共通語にエスペラントが使われている、というイメージはピッタリですね。
今ではややレトロな感じもしますが。訪れることのなかったもう一つの未来、というところでしょうか。
何しろ今では日本の企業でも英語を社内公用語にする、と言っている企業もいるくらいで、日本人も“英語帝国主義”を何の疑問もなく受け入れています。
TPPを何の疑問もなく受け入れるのと相似形を示していますね。
金の星社 少年少女21世紀のSFシリーズには 月ジェット作戦 という作品があります。
この作品にも「宇宙標準語」という概念が出てきますが、これはエスペラントとは関係ないようです。
私も中学生の頃、宮沢賢治が学んでいた言語、ということでエスペラントを知り、一時期、勉強していたことあります。
毎度のことながら、中途半端で終わりました。
エスペラントにしろ読書にしろ創作活動にしろ、私のやることは何から何まで中途半端で、何一つものになったものはありません。
一発逆転を狙うあまり、短時間睡眠だけはしぶとく挑戦し続けましたが、それが結局心身を蝕み、人生を棒に振る原因となったのです。
何を見ても、何を思い出しても、自分の人生が情けなくみじめに思えて死にたくなってきます。
私自身が得ることのできなかったもう一つの未来。
何で中途半端に生き続けて生き恥をさらしているのか。
青山さんちの部屋(別館) 作家 瀬川昌男とエスペラント http://bluamonto.web.fc2.com/segawa.htm
さて、本書の初版は1968年に発行されたようです。
当然、執筆もその辺りでしょう。
本作品の執筆当時、30年後の21世紀は進化した未来社会のように思われていたのでしょう。
物語冒頭、タツオとマコトが話しているのは1980年代ということです。
ビルの間を高速道路がつながり、エアカーが走っています。
つまり、10年後の未来も、既にこれだけ進んでいるんだ、と描かれているわけであります。
当時の科学的進歩への自信というものが伺われます。
その後の進歩も目覚ましいものがあります。
1980年代の末には月の開拓が始まり、1990年に完全軍縮・軍備撤廃が実現。
世界が平和になると、宇宙開発が急速に進む。
20世紀の終わりには火星開拓が始まり、それから10年あまり後、チタン開拓が始まる。
一方、この平和の流れに取り残された存在もあります。
ある大国が質量爆弾開発のために創造した、サイボーグ達。
彼らは国際平和が実現した後、なかった存在ということにされ、衛星チタンに“島流し”されたのです。
チタン開拓隊にしてみれば、国際緊張時代の“亡霊”のような存在です。
ちょっと、『ウルトラマン』第23話「故郷は地球」に登場した怪獣ジャミラを思い出します。
ということで、探険隊を襲うサイボーグ達も気の毒な存在で、分からないでもありません。
平和な時代から見捨てられた犠牲者達です。
本作品にサイボーグが登場しますが、『サイボーグ009』に出てきたような個性豊かなサイボーグ達の活躍物語ではありません。
当時のサイボーグ手術の限界か、サイボーグになると、頭はつるつるで表情もなくなり、人間だった頃から様変わりして皆同じような見かけになります。
そういえば『009』にも頭がつるつるのサイボーグが登場しました。
しかしあの方は元・役者であって、サイボーグになってからも表情豊かです。
さて、ひるがえって現在を見てみれば、平和な世界は未だ至らず、相変わらず紛争や緊張が続き、犠牲ばかりが増えています。
本作品が1968年に描かれてから40年以上、本作品で描かれたような歴史的過程をたどることなく、人々はいがみ合ってきたのです。
2010年代の現在、10年後や30年後を想像してみると、本作品のような希望に満ちた未来を想像できるでしょうか?
宇宙開発や世界平和の実現どころか、世界の存続すら危ぶまれている状態です。
核発電が危険だと明らかになっても核発電は運転を継続し、それこそサイボーグに改造が必要と思われる危険な下請け作業も現代の奴隷制・生贄制のような形で続けられています。
一番怖いのは人間であり、一番進化が必要なのは人間の心であります。
人類は一体いつどこで間違ってきたのでしょうか。
我々が得ることのできなかったもう一つの未来。
ところで、本作品では、1990年に完全軍縮・軍備撤廃があっさりと実現したことになっています。
ここに至るまでに色々な出来事があったのでしょうか。
また、強硬に反対する勢力はなかったのでしょうか。
少年少女21世紀のSFシリーズには 月ジェット作戦 があります。
この作品では、1990年に世界条約が成立し、建て前上、各国が協力して宇宙開発することになります。
しかし、この体制に反対する勢力が世界各国に現れ、各国で内戦のような状況になっています。
1990年代のアナザーストーリー。
読み比べてみるのも面白いかと思います。
2012.08.19(日)
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なお、「チタンの幽霊人」の本の画像は、モズブックス様、書庫の中様から頂きました。
http://mozubooks.com/?pid=18390597
書庫の中 チタンの幽霊人 http://ameblo.jp/mtjmtj02/entry-10656685542.html
これが、オッサン・オブ・ジョイトイの本棚じゃ
『チタンの幽霊人(少年少女21世紀のSF1)』 (瀬川 昌男 著・金の星社)
http://massigla.s50.xrea.com/b0058.html
produced by
20世紀少年少女SFクラブ
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